閲覧等の制限の申立て却下決定に対する即時抗告事件(名古屋地裁令和7年(ラ)第359号)
この事件の概要
この決定は、大阪府が起こした「訴訟記録の閲覧制限」の申し立てを裁判所が認めなかったことに関するものである。
当事者
- 抗告人(申立人): 大阪府
- 相手方: ある個人(基本事件の原告)。この個人は、大阪府に対して「情報公開請求をしたが、非公開にされたのは違法だ」として損害賠償を求める裁判(基本事件)を起こしている。
ポイント
- 損害賠償を求める裁判の中で、原告が証拠として提出した2つの文書(甲72号証、甲75号証の2)が問題となった。
- 大阪府は、「これらの文書には、第三者のプライベートな情報や、大阪府の公務上の秘密が含まれているため、裁判の当事者以外には見られないように閲覧を制限してほしい」と裁判所に申し立てた。
- しかし、裁判所はこの申し立てを却下した。
- 大阪府は、この却下決定を不服として、高等裁判所に即時抗告(不服申し立て)をしたが、棄却された。
大阪府の主張(なぜ閲覧を制限すべきか)
大阪府が閲覧を制限してほしいと主張した文書には、以下の内容が含まれていた。
-
甲75号証の2:
- 府立高校の生徒が自殺したことに関し、その遺族が大阪府を訴えた別の裁判の内部資料。
- 遺族の氏名、事件の詳細、府の訴訟方針などが記載されている。
- 大阪府は「これは遺族の私生活上の重大な秘密であり、公開されれば遺族の生活に著しい支障が生じる」と主張。
- そもそもこの資料は、府の職員が誤って原告に渡してしまったものである。
-
甲72号証:
- ある個人が情報公開請求をした際の、請求者の氏名(宛名人)が書かれた文書。
- 大阪府は「これも個人のプライバシーに関わる個人情報であり、保護されるべきだ」と主張。
これらの情報を守るため、大阪府は民事訴訟法を根拠に、閲覧制限は認められるべきだと主張。特に、過去の類似した裁判例(東京高裁決定)を引用し、自分たちの主張の正当性を訴えた。
名古屋高等裁判所の判断(なぜ申し立てを認めなかったか)
名古屋高等裁判所は、大阪府の主張を検討した上で、最終的に大阪府の抗告を棄却(=閲覧制限は認めないという結論を維持)。
その理由は以下の通り。
-
「私生活上の重大な秘密」には当たらない:
遺族の情報(甲75号証の2)について、これが公開されることで遺族の社会生活に「著しい支障が生じる」という証明が不十分であると判断した。
-
「営業秘密」にも「公務上の秘密」にも基づく制限はできない:
- これらの情報は、法律で定められた「営業秘密」には該当しない。
- たとえ「公務上の秘密」であったとしても、民事訴訟法には「公務上の秘密」を理由に訴訟記録の閲覧を制限する規定がない。法律は「営業秘密」については制限を認めているが、「公務上の秘密」については認めていないため、法律上の根拠がないと判断した。
令和7年(ラ)第359号 閲覧等の制限の申立て却下決定に対する即時抗告事件
(原審:名古屋地方裁判所令和7年(モ)第33号・基本事件:令和6年(ワ)第2789号 損害賠償等請求事件)
決 定
大阪市中央区大手前2-1-22
抗告人 大阪府
同代表者知事 吉村洋文
同代理人弁護士 井川一裕
主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
別紙「即時抗告申立書」及び「即時抗告理由書」記載のとおり
第2 事案の概要
(以下、略語は、特に断りのない限り、原決定の例による。)
1 基本事件は、基本事件原告が、抗告人に対し、基本事件原告が行った行政文書公開請求に対して抗告人教育委員会等が非公開決定等をしたことが違法であるなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償の支払を求める事案である。
2 抗告人は、基本事件の訴訟記録中、①甲72号証の宛名人の氏名を記載した部分及び基本事件原告の準備書面(1)の27頁9行目から28頁3行目までの甲72号証の宛名人の氏名を記載した部分(本件情報1)、②甲75号証の2の「東住吉総合高校損害賠償請求事件 応訴理由」(1、2頁)の冒頭の個人の氏名を記載した部分、事件番号を記載した部分及び「1 事件の概要」から「3 応訴理由」までの各欄の記載部分並びに同書証の「訴訟事件の概要」(3頁)の「裁判所」、「事件番号」、「原告」、「請求額」、「事件の概要」、「原告の主張」及び「大阪府の主張」の各欄の記載部分(本件情報2)について、閲覧等の請求をすることができる者を基本事件の当事者に限る旨との裁判を求めて本件申立てをした。
原審が、本件申立てには、民訴法92条1項2号に掲げる事由の疎明があるとは認められないとして、これを却下したところ、抗告人が即時抗告した。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件申立ては、理由がないと判断する。その理由は、次の2のとおり抗告理由に対する判断を付加するほかは、原決定の「理由」の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 抗告理由についての判断
(1) 抗告人は、本件情報2については、民訴法92条1項1号の類推適用により閲覧等の制限が認められるべき旨主張する。
しかし、本件情報2の事件番号に係る訴訟(以下「別件訴訟」という。)の記録について閲覧等の制限がされたことの疎明がないことに照らすと、本件情報2が別件訴訟の当事者や関係者の私生活上についての重大な秘密であり、かつ、第三者が本件情報2の閲覧等を行うことにより、別件訴訟の当事者や関係者が社会生活を営むのに著しい支障が生ずるおそれがあると認めることができないから、本件情報2について民訴法92条1項1号の類推適用により閲覧等を制限することはできない。
(2) 抗告人は、本件情報1及び本件情報2については、民訴法92条1項2号の適用又は類推適用により閲覧等の制限が認められるべき旨主張する。
しかし、本件情報1及び本件情報2が同号の営業秘密に当たるとはいえないことは、前記1で引用した原決定の「理由」の2に記載のとおりである。そして、同号が、営業秘密として「不正競争防止法2条6項に規定する営業秘密をいう」と規定していること、文書提出義務に関して、民訴法220条4項ロが公務員の職務上の秘密に関する文書について規定しているにもかかわらず、同法92条において国又は地方公共団体の秘密であることを理由とする閲覧等の制限の事由について規定がないことなどからすれば、仮に本件情報1及び本件情報2が抗告人の公務上の秘密であるとしても、同号を類推適用する基礎を欠くといわざるを得ない。
(3) 他にも抗告人は種々主張するが、前記1の判断を左右するものとはいえない。
3 よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、主文のとおり決定する。
令和7年10月23日
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官 新谷晋司
裁判官 山本万起子
裁判官 本松 智
即時抗告申立書
令和7年9月3日
名古屋高等裁判所 御中
〒540-8570 大阪市中央区大手前2丁目
抗告人(申立人) 大阪府
上記代表者知事 吉村洋文
〒533-0033 大阪市東淀川区東中島1-21-33俵ビル2階
弁護士法人俵法律事務所(法人受任、送達場所)
電話 06-6323-6700 FAX 06-6323-5510
上記抗告人(申立人)代理人弁護士 井川一裕
相手方住所
相手方 XXXX
上記申立人と相手方間の名古屋地方裁判所令和6年(ワ)第2789号損害賠償等請求事件に関し、上記申立人による令和7年(モ)第33号閲覧等の制限の申立て事件について、同裁判所が令和7年8月28日にした下記決定に対して不服であるから即時抗告を提起する。
原決定の表示
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
抗告の趣旨
1 原決定を取り消す
2 本件訴訟記録中の目録記載部分について、閲覧もしくは謄写、その正本、謄本もしくは抄本の交付又はその複製の請求をすることができる者を本件訴訟当事者に限る
との裁判を求める。
抗告の理由
本申立書提出後2週間程度をめどに理由書を提出する。
以上
目 録
1 甲72号証の宛名人の氏名、原告準備書面(1)の27頁9行目から28頁3行目までに記載されている訴外人(これは甲72号証の宛名人である。)の氏名
2 甲75号証の2の「東住吉総合高校損害賠償請求事件 応訴理由」のうち、冒頭の訴外人の氏名及び事件番号、並びに「1 事件の概要」、「2 原告の主張」、「3 応訴理由」の各記載、「訴訟事件の概要」の「裁判所」、「事件番号」、「原告」、「請求額」、「事件の概要」、「原告の主張」及び「大阪府の主張」の各欄の記載
令和7年(ソラ)第32号 閲覧等制限抗告事件
(基本事件:令和6年(ワ)第2789号事件、令和7年(ワネ)第308号)
抗告人 大阪府
相手方 XXXX
即時抗告理由書
令和7年9月17日
名古屋高等裁判所 御中
抗告人代理人
弁護士 井川一裕
1 甲75の2について
(1) 本件閲覧等制限申立ての対象である甲75の2は、大阪府立高校の生徒が同校教員の指導を受けた後で自死をしたことに関しその遺族が大阪府を被告として提訴した事件に関して、遺族氏名や訴訟事件番号等のほか、事件の概要(経過の概略等)、遺族の主張内容、それに対する大阪府教育庁としての応訴方針・主張予定内容等を記載したものであり、全体として不可分的・一体的な情報を構成している。
(2) 甲75の2が本件基本事件原告(被控訴人)の手元に存在する経過は次のとおりである。
令和2年8月20日、大阪府教育庁は、本件基本事件原告の情報公開請求に対し、同請求対象の一つだった甲75の2に記載された情報について非公開とした(このとき同原告へ交付したのが甲75の1である。)。(この非公開決定については、大阪府情報公開審査会の答申において妥当と判断されている。)
その後、令和6年4月10日、本件基本事件原告が別の情報公開請求をしたのに対し、大阪府教育庁は部分公開決定を行い、その部分公開等する文書のデータを原告へ交付したとき、甲75の1はその交付する対象ではなかったが、担当職員の誤りにより、甲75の2を一緒に交付してしまった。
これに対し、担当職員から令和6年6月13日と6月17日及び6月25日に本件基本事件原告に対しメールで甲75の2のデータ消去を要求したが、同原告からの応答がなく、担当職員から6月26日に同原告に電話をかけてデータ消去を求めたところ、電話では受け付けないといって拒否されたことから、その後、7月5日、8月9日、10月15日、11月1日、12月3日、令和7年3月28日と、合計10回にわたり電子メールや公文書を送付してデータ消去を要求したが、データ消去に応じてもらえず、本件基本事件において、原告がその甲75の2を証拠提出したものである。
甲75の2は、上記のとおり担当職員の誤りにより、原告へ交付してしまったものにすぎず、大阪府教育庁は大阪府情報公開条例に基づき非公開決定をしているものであり、その非公開決定には何らの変更も生じていないものである。
なお、甲75の2は、令和6年6月に原告以外の者から情報公開請求されたこともあるが、大阪府教育庁は、それに対しても当然に、非公開としているものである。
2 甲72について
(1) 本件閲覧等制限申立ての対象である甲72等は、大阪府教育庁の情報公開請求における公開・非公開等の決定期間の延長通知書の宛名人である。
(2) これが本件基本事件原告の手元に存在する経過は次のとおりである。
令和6年4月に本件基本事件原告が大阪府教育庁に対し、「情報公開請求における公開・非公開等の決定期間の延長通知書」を情報公開請求してきた。その公開請求の対象たる決定期間延長通知書が甲72しか存在しなかった中で、当初、大阪府教育庁(文化財保護課)は公開決定を行い、甲72をデータにより原告に交付した。これは、甲72に記載されている宛名人が情報公開請求をしてきたとき、その宛名人による情報公開請求書の住所欄に当該宛名人の所属する法律事務所名と所在地が記載されていたことから、当該宛名人を「事業者としての名称」として捉えており、公開したものである。しかし、その後、大阪府内部において、「個人名」で情報公開請求がなされた場合には、事業活動として公開請求しているものであることが明記されていない限り、その住所地の記載等にかかわらず、「個人として」公開請求しているものと捉えるべきだとされ、甲72の宛名人に関する情報は、大阪府情報公開条例9条1号の「個人情報」に該当するものとされたことから、大阪府教育庁は、原告に対し、甲72の宛名人に関する情報を非公開とする決定を出し直し、その宛名人に関する部分を黒塗りした文書を再交付した。そして、それとともに、大阪府教育庁から原告に対しメールにより、先に交付した甲72の文書(宛名人に関する情報が黒塗りされていないもの)を削除するよう要求した。しかし、原告は、この要求にも応じず、今般、甲72として証拠提出されるという状況になったものである。
3 本件閲覧等制限申立ての対象のうち、少なくとも甲75の2の記載内容は、民訴法92条1項1号の類推適用により、閲覧等制限が認められるべきこと
(1) 東京高裁令和6年5月17日決定について(疎乙3)
東京高裁令和6年5月17日決定は、その基本事件の原告が検察官による勾留請求等の違法を主張し被告国に対し国家賠償請求を求める訴訟事件記録中、同原告提出の主張書面及び書証に、別件刑事事件の被害者等であった者に関する記載があるとして被告国が当該記載部分の閲覧等制限申立てを行った事案について、民訴法92条1項1項を類推適用してその閲覧等制限を認めたものである。
同決定はその決定の理由において、次のような判示をしている。
① 上記別件刑事事件の被害者らの氏名等の記載を含む部分が公開されれば、被害者らが刑事事件の被害者らであると特定される可能性が高く、その刑事事件の社会的関心が高いことからすると、被害者らが刑事事件の被害者らであると知られれば社会的注目を浴びるなどして社会生活を送る上で重大な支障を来すおそれがあるから、その記載部分は、被害者らの私生活についての重大な秘密であって、第三者が閲覧等を行うことにより、被害者らが社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるものに当たる。
② 被害者らの氏名等は、刑事事件において要保護性の高い秘密と判断されるところ、その一方で、当該基本事件(被告国に対する国賠請求事件)における閲覧等制限申立てが認容されないとすると、刑事事件と当該基本事件において情報の取扱いが一貫せず著しい齟齬が生じる上、被害者らに関する記載部分が第三者による閲覧可能な状態に置かれて刑事事件の被害者が容易に特定されることになり、被害者らの名誉やプライバシー、生活の平穏等の人格的な利益が侵害されることになって、刑事事件で発令された被害者特定事項秘匿決定が無意味なものになりかねず、刑訴法等の趣旨に反する事態を招くことになる。
③ 当該基本事件において、本件犯罪事実が請求の前提となり、あるいはその存否等が請求を基礎づけるものとして主要な審理の対象となっていながら、訴訟当事者でないという理由で被害者らに関する情報が訴訟記録の閲覧等の制限の対象に一切ならないとすると、同一の要保護性を有する私生活上の秘密であるにもかかわらず、訴訟当事者が誰であるかによって、閲覧等の制限の対象になるかどうかの結論を異にするといった不均衡が生じることになるが、訴訟記録に含まれる個人の私生活上の重大な秘密が公開されることを防止しようとする民訴法92条1項1号がこのような事態を容認するものとは解しがたい。
④ 憲法82条は訴訟記録の閲覧等を直接権利として保障するものではないことからすれば、訴訟記録の閲覧等により発生する権利侵害や不利益の重大性の程度をふまえ制限の対象にするか否かを慎重に吟味すべきものであり、閲覧等制限に関する規定を類推適用する余地をおよそ排除すべきであるとするのは相当でない。
当該基本事件において、民訴法92条1項1号の「当事者」を厳格に訴訟当事者に限ると解して、被害者らの私生活上の秘密が閲覧等制限の対象にならないとすると、被害者らの名誉、プライバシー、生活の平穏等の人格的な利益が侵害される可能性があるが、同号の立法者が刑事訴訟において秘匿の対象とされた被害者らの事項についてまで閲覧等の制限の対象から外し、その保護を拒否する明確な意思を有していたと解すべき根拠は見当たらない。
さらに訴訟記録の閲覧の制限の対象を必要最小限のものに限るという要請については、上記で述べた諸点を考慮しながら、同号の要件である私生活上の秘密の重大性や社会生活を営む上での支障の著しさの解釈を適切に行うことによって十分確保できるから、同号の類推適用を否定する根拠にならない。
なお、当該基本事件の被告国自身に民訴法92条1項1号の「私生活についての重大な秘密」なるものは想定できないが、刑事手続きの違法が主張され当該基本事件被告が損害賠償を求められているという当該基本事件に限って考えれば、「本件被害者の私生活についての重大な秘密」は国が主宰する刑事手続きを適正に執行する上で保護すべき者の秘密であって、当事者に準ずるものの秘密とみることもでき、これが閲覧等制限の対象になるとしても、閲覧等制限の対象がいたずらに拡大されることにはならない。
(2) 上記高裁決定は極めて妥当なものであるが、少なくとも本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分には、上記高裁決定①~④の全てが十分かつ的確に当てはまるものである。
ア 上記高裁決定①について
すなわち、まず上記高裁決定①が刑事事件の被害者らに関して述べている内容は、本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分における遺族にも全く同様に当てはまるものである。
本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分は、大阪府立高校の生徒が同校教員の指導を受けた後で自死をしたことに関しその遺族が大阪府を被告として提訴したこと、遺族氏名、提訴した訴訟事件番号、遺族の主張内容、それに対する大阪府教育庁の主張内容等が記載されている。このため、これが第三者によって閲覧等されてしまうと、上記生徒や遺族が特定されるとともに、自死等をめぐる事案の具体的内容等が知られることになり、近時において学校における教員の指導状況や生徒の自死等に関する社会的関心が高いことからすると、遺族らに社会的注目が集まることが十分に考えられ、時間をかけて心情の鎮静を図り生活を落ち着けようとしている遺族らの心情や社会生活に対し重大な支障を来すおそれがあることは明らかである。
したがって、甲75の2の対象記載部分は、遺族らの私生活についての重大な秘密であって、第三者が閲覧等を行うと、遺族らの社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるものに当たるものである。
このように、上記高裁決定①の判示内容は、そのまま本件閲覧等制限申立ての対象(甲75の2)についても当てはまるものである。
イ 上記高裁決定②について
そして、上記高裁決定②の判示も、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分にそのまま当てはまるものである。
すなわち、本件の閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分は、大阪府教育庁が本件基本事件原告の情報公開請求に対し、大阪府情報公開条例9条1号の非公開情報(個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの)にあたるとして非公開決定しており、その非公開決定は、既に行政処分として確定しているとともに、本件基本事件の一審判決で、違法性がないとして認められている。
それにもかかわらず、本件閲覧制限申立てが認容されないとなると、上記大阪府教育庁の非公開決定や本件基本事件の一審判決との間において情報の取扱いが一貫せず、著しい齟齬が生じることになる。そして、本件閲覧制限申立ての対象記載部分たる甲75の2の内容が第三者による閲覧等の可能な状態に置かれてしまい、遺族の名誉やプライバシー、生活の平穏等の重大な人格的な利益が侵害されることになって、上記大阪府情報公開条例の趣旨目的や、本件基本事件の一審判決の判示内容が無意味なものになりかねず、法令がそのような遺族等の重大な人格的利益を保護しようとしている趣旨に反することになる。
このように上記高裁決定②の判示内容も、そのまま、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分に直接的に当てはまるものである。
ウ 上記高裁決定③について
さらに、上記高裁決定③の判示も、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分に当てはまるものである。
すなわち、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分は、本件基本事件原告が大阪府教育庁による公文書非公開決定について争う主たる根拠にしており、主要な審理の対象となっているものであるが、その対象記載部分に記載されている遺族らが、その対象記載部分が第三者に閲覧されることによって自分たちの重大な人格的利益が侵害されることになるにもかかわらず、単に本件基本事件の訴訟当事者になっていないということで、訴訟記録閲覧等制限の対象に一切ならず、自己の重大な利益侵害に何ら対処しようがないというのでは、訴訟当事者が誰であるかによって訴訟記録の閲覧等の制限の対象になるかどうかの結論を異にするという不均衡をきたすことになるものである。このような事態を、訴訟記録に含まれる個人の私生活上の重大な秘密が公開されることを防止しようとする民訴法92条1項1号が容認するものとは到底解されないものである。
このように、上記高裁決定③の判示内容も、そのまま、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分に当てはまるものである。
エ 上記高裁決定④について
そして、上記高裁決定④の判示も、本件閲覧制限申立ての甲75の2の対象記載部分に当てはまるものである。
すなわち、憲法82条は裁判の対審と判決を公開することを求めるものであって、訴訟記録の閲覧等を直接権利等として保障するものではない。訴訟記録中の証拠などを常に全て第三者に閲覧させないと裁判の公正が保たれないなどというものでないのが現実である(証拠の閲覧等が制限されても、訴訟当事者の攻撃防御や裁判所の訴訟指揮に対する意見具申等には何らの支障も生じないのであるから、その観点からみても裁判の適正は十分に担保されることになるものである。)。したがって、訴訟記録の閲覧等ということを金科玉条のごとく崇め奉るのではなく、訴訟記録の閲覧等により発生する権利侵害や不利益の重大性の程度を十分に考慮しながら、閲覧等制限の対象にするか否かを適切に判断すべきものであって、閲覧等制限に関する規定を類推適用する余地を排除する理由はないものである。この点について、上記高裁決定④は、全くもって妥当な判示をしているものである。
そして、前述してきたとおり、本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分には遺族の名誉、プライバシー、生活の平穏等の重大な人格的利益に関する事項が記載されているのであるから、民訴法92条1項1号の「当事者」の意味を厳格に解釈適用して、この対象記載部分が閲覧制限等の対象にならないとすると、遺族の名誉、プライバシー、生活の平穏等の人格的な利益が侵害されることになるものであり、大阪府情報公開条例などが遺族のこのような情報・記載を秘匿すべきものとしたことについてまで、民訴法92条1項1号の立法者が、閲覧等制限の対象から外し、その保護を拒否するような意思を有していたとは到底解されないものである。
また、本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分について、大阪府教育庁が、情報公開請求を受けたときに大阪府情報公開条例に基づき情報公開手続きを適正に執行するため当該対象記載部分の遺族の名誉、プライバシー、生活の平穏等の利益を確保すべく、非公開決定をしているということからすれば、その対象記載部分の遺族は、当該対象記載部分の取り扱いを大阪府教育庁に託していると捉えることができ、本件基本事件において当該対象記載部分について大阪府教育庁が遺族の利益をふまえて非公開としたことが国賠法上の違法にあたるかどうかが争われているところにおいては、当該対象記載部分の秘密は、当事者に準ずる者の秘密とみることができるものである。したがって、これが閲覧等制限の対象になるとしても、閲覧等制限の対象がいたずらに拡大されることにはならないものである。
このように、上記高裁決定④の判示内容も、そのまま、本件閲覧等制限申立ての甲75の2の対象記載部分に当てはまるものである。
(3) 以上のとおり、上記高裁決定の判示内容は全て本件閲覧等制限申立てに当てはまる内容となっているものであり、本件閲覧等制限申立てについても、少なくとも甲75の2に関しては、民訴法92条1項1号の類推適用により、閲覧等制限が認められるべきである。
4 本件閲覧等制限申立てについて、民訴法92条1項2号の適用または類推適用により閲覧等制限が認められるべきこと
(1) 本件閲覧等制限申立ての原決定は、民訴法92条1項2号について、法文上、「営業秘密(不正競争防止法第2条第6項に規定する営業秘密をいう)」との文言に忠実にあろうとして、本件閲覧等制限申立ての対象記載部分(甲75の2及び甲72等)は営業秘密に当たらないとして、申立てを却下した。
(2) しかし、この点についても、前記引用の東京高裁が極めて的確に判示しているとおり、憲法82条は訴訟記録の閲覧等までを保障しているものではない。訴訟記録の閲覧が裁判の公正に資するという趣旨は重視すべきであるとしても、現実には、訴訟記録中の証拠を常に全て第三者に閲覧させないと裁判の公正が保たれないなどというほどのものではない。したがって、訴訟記録の閲覧等により権利侵害や不利益、他の法令との不均衡などが生じる危険がある場合には、訴訟記録の閲覧等の趣旨と権利侵害等の危険等の防止とを適切にバランスをとった解釈適用がなされるべきである。
そうすると、民訴法の訴訟記録の閲覧等制限制度について、何が何でも厳格に形式的に企業等の営業秘密に該当するものだけに限定して閲覧等制限の対象にしなければならないというものではないはずである。
公務上の秘密であっても、本件の前記1及び2のような事情のもとで、特に甲75の2については、大阪府教育庁が原告に対しデータ廃棄を繰り返し要求していたが、そのような中においても証拠として使用されたというものであり、一般には想定されがたい特殊な事情のもとで、民事訴訟手続に出てきてしまうことはあるものであり、このような公務上の秘密を保護しない理由はないはずである。民訴法は、公務上の秘密について、220条4号ロにおいて文書提出命令の対象外としたり、191条において公務員が証言をする場合に監督官庁が不承認とすることができることにしたりするなど、適切に保護していこうとしているのであるから、たまたま民事訴訟手続き上に出てしまった公務上の秘密についても、適切に保護を図るべきであり、そうしなければ、公務遂行等に支障・影響が出るのみならず、住民の名誉・プライバシー等が著しく危険にさらされることになってしまうのである。
したがって、公務上の秘密に関する記載についても、民訴法92条1項2号の適用ないし類推適用として、営業秘密該当性の一般に言われている3要件(秘密管理性、事業上の利用・有用性、非公然性)さえ充足すれば、閲覧等制限の対象となるというべきものである。
(3) 本件閲覧等制限申立ての対象記載部分が大阪府教育庁において秘密管理されていること (疎乙1、2)
大阪府教育庁では、業務上取り扱う保存期間の定めのある文書は、原則として独自のシステムに設けられる簿冊(行政文書の保管の単位となるファイル)にデータとして保管していて、当該簿冊にはアクセス制限をかけており、当該簿冊を作成したグループ(室・課等や、室・課等の中のさらに細分化されたグループなど)の職員にしかアクセス権限を付与しておらず、他のグループの職員は一切アクセスすることができず、簿冊内の文書を閲覧することもできないようになっている。そして、当該文書にアクセスできる職員も、業務上必要な場合にしか当該文書を取り扱わないものとなっている。
本件閲覧等制限の対象である甲75の2の文書、甲72の文書、甲72に関する原告準備書面(この準備書面はPDFデータとなっている。)についても同様の管理がなされていて、甲75の2については高等学校課生徒指導グループ、甲72については文化財保護課、甲72に関する原告準備書面については本件訴訟に関係している課(教育総務企画課、高等学校課、教職員人事課、文化財保護課、法務課、情報公開課)のみが保有しており、徹底したアクセス制限・管理がなされている。そして、それらの職員も業務上必要な場合にしか当該文書を取り扱うことはできない。
したがって、甲75の2、甲72、甲72に関する原告準備書面の記載は、大阪府教育庁において秘密として管理されている情報である。
(4) 公然と知られていない情報であること
ア 本件閲覧等制限申立ての対象である甲75の2は、前述したとおり、原告から情報公開請求されたのに対し、大阪府府情報公開条例9条1号により非公開としている(甲75の1)。
甲75の2は、令和6年6月に原告以外の者から情報公開請求されたこともあるが、それに対しても同様に非公開としている。
このように甲75の2は、対外的にも公開されることのない情報となっており、非公然性の認められる情報である。
甲75の2は、前記1のとおり、大阪府教育庁の職員が原告からの別の情報公開請求に対応して行政文書のデータ交付をしている中で誤って交付してしまったものであるが、あくまでも誤って交付したものにすぎないこと、繰り返し原告に対しデータ削除を要求していることなどからして、甲75の2の非公然性が失われていないことは当然である。
イ 本件閲覧等制限申立ての対象である甲72 (宛名人の情報)についても、前記2のとおり、個人に関する情報であり、個人がどのような情報公開請求しているかということは当該個人のプライバシーその他の利益に関するものであることから大阪府情報公開条例9条1号により非公開とする決定を行っている。
甲72については、原告以外から情報公開請求がなされたことはないが、仮にそれを対象文書とするような情報公開請求がされたとしても、大阪府教育庁は甲72の宛名人に関する情報は非公開とすることになるものである。
したがって、甲72は、対外的にも公開されることのない情報であり、非公然の情報となっているものである。
甲72については、前記2のとおり、これまでの経過の中でいったん原告に公開・交付されたことはあるが、大阪府教育庁がその公開決定処分を取り消して非公開とし、原告に対し交付したデータの削除を要求していることからして、甲72の非公然性は何ら失われていないものである。
なお、本件閲覧等制限申立ての対象である甲72に関する原告準備書面の記載については、上記甲72の内容等が説明された記載であるが、これも、仮に情報公開請求がなされたとしても非公開とすることになるものであり、非公然性の認められる情報である。
ウ したがって、甲75の2、甲72、甲72に関する原告準備書面の記載は、いずれも、公然と知られていない情報である。
(5) 大阪府教育庁の事業活動に利用されている有用な情報であること
ア 本件閲覧制限等申立ての対象である甲75の2について、遺族の名誉、プライバシー、生活の平穏等に関する秘密が記載されているほか、それと一体的に訴訟の係属裁判所、事件番号等を明確にしつつ、大阪府教育庁として訴訟にどのように対応していくのか、積極的に争う場合にはどのような主張等をするのか、当該事件の社会的影響の有無やそれに対する対応等といった内部的に検討した内容から構成されており、大阪府教育庁の訴訟対応等に利用されている有用な情報である。甲75の2のような文書は、当該事件・訴訟の内容等が端的に整理されているので、当該事件・訴訟の終了後においても、同種事案の事件や訴訟等が生じたときにはこれを参照して、対応・改善等を検討するときに利用されるものである。したがって、甲75の2は、大阪府教育庁の事業活動上において有用な情報である(疎乙1)。
イ 本件閲覧制限等申立ての対象である甲72(宛名人に関する情報)についても、情報公開請求者(個人)に関する情報は、大阪府教育庁が情報公開請求に対応するのに不可欠な情報であるし、また、前記でも述べたとおり、個人がどういう情報公開請求をしているかは当該個人のプライバシーその他の利益に関わるものであり、秘密として保護する必要性のある情報であるから、大阪府教育庁の事業活動上有用な情報である。
なお、本件閲覧制限等申立ての対象である甲72に関する原告準備書面の記載についても、甲72と一体的に捉えられるべきものである。
(6) 以上のとおり、本件閲覧制限等申立ての対象記載部分はいずれも、秘密管理性、非公然性、事業上の利用・有用性の要件を充足しているものであるから、民訴法92条1項2号の適用ないし類推適用という観点からも、閲覧等制限が認められるべきである。
以上