行政文書非公開決定取消訴訟(大阪地裁R5(行ウ)1、同4、同8)

【概要】

 本件訴訟原告は、大阪府立高校教員である。

 R5(行ウ)1(甲事件)は、原告が自ら作成した授業教材を情報公開請求したところ、「作成した本人が請求したものであるために『知る権利の保障』を逸脱している」「情報公開請求権の濫用」などという理由で非公開にされたもの。【判決で取消された】
 R5(行ウ)4(乙事件)は、原告が勤務校等における「体育の水泳実技に参加できない生徒に課しているレポートやその評価基準」などを請求したところ、「明らかに存在するはずのない文書」「情報公開請求権の濫用」などという理由などで非公開にされたもの。【判決で取消された】
 R5(行ウ)8(丙事件)は、授業で実施した情報公開請求(生徒が書いた案を原告がとりまとめ、教員としての肩書き付で提出したもの)の決定通知が、職場ではなく自宅に送られてきたもの。原告は、名宛人相違であるため無効であると主張した。【判決では請求却下】

 被告は、原告がこれまで数年間に200件以上の情報公開請求をしたことなどを根拠に、請求権の濫用を主張していたが、裁判所はそれを「理由がないもの」とし、被告の主張を退けた。

 本件訴訟は、大阪府教育委員会が原告に対してした情報公開請求についての「非公開決定」等3件についての処分取消を求めるものであり、各処分が別個のものであることから、3件の事件として併合して審議が進められた。

【ポイント】

・本人訴訟による行政訴訟において、情報公開に関する「非公開決定」取消判決が出るとともに、被告(処分庁大阪府教育委員会)の違法につき国家賠償請求による慰謝料が認定された。
・公務員が職務上作成した文書を自ら情報公開請求しても、請求権の濫用には当たらないことが判示された。
・原告がこれまでに218件の情報公開請求を実施したことについて、その約95%が公開請求から2ヶ月以内に公開決定等が行なわれていたことなどを理由に、被告処分庁の業務に著しい遅滞が起きていたと認めることが困難である旨が判示された。
・被告が非公開決定処分時に通知書に記載した付記理由について、訴訟において理由を追加することが許容されると判示された。
・原告の請求が請求権の濫用にあたらないことや、被告が非公開決定等をするにあたって請求内容の補正を求めなかったことなどを理由に、大阪府教育委員会職員による注意義務違反を認め、慰謝料2万円が認定された。




令和5年11月10日判決言渡 同日原本領収
令和5年(行ウ)第1号 処分取消等請求事件(以下「甲事件」という。)
合和5年(行ウ)第4号 処分取消請求事件(以下「乙事件」という。)
令和5年(行ウ)第8号 処分取消請求事件(以下「丙事件」という。)
口頭弁論終結日 令和5年9月1日

判決

 原告住所
 原告 XXXX

 大阪市中央区大手前2丁目1番22号
 被告 大阪府

 同代表者兼処分行政庁 大阪府教育委員会
 同委員会代表者教育長 橋本正司
 同訴訟代理人弁護士 井川一裕
 同指定代理人 松下信之、高階章一、福井章人、神谷智美、松本颯馬

 被告代表者知事 吉村洋文
 同訴訟代理人弁護士 井川一裕
 同指定代理人 松下信之、高階章一、福井章人、神谷智美、松本颯

主文

1 丙事件の訴えのうち、大阪府教育委員会が令和4年3月3日付けで個人である原告に対してした公開決定、部分公開決定、不存在による非公開決定及び公開請求拒否決定(教高第4189号)の取消しを求める部分並びに「大阪府立●●高校教諭「●●」担当者XXXX」宛てで上記各決定と同内容の各決定をすることの義務付けを求める部分をいずれも却下する。
2 大阪府教育委員会が令和4年7月12日付けで原告に対してした非公開決定(教高第1784号)を取り消す。
3 大阪府教育委員会が令和4年7月19日付けで原告に対してした非公開決定(教高第2401号)を取り消す。
4 被告は、原告に対し、2万円を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1(主位的請求)
 大阪府教育委員会が令和4年3月3日付けで個人である原告に対してした公開決定、部分公開決定、不存在による非公開決定及び公開請求拒否決定(教高第4189号)を取り消す。
(予備的請求)
 大阪府教育委員会が令和4年3月3日付けで個人である原告に対してした公開決定、部分公開決定、不存在による非公開決定及び公開請求拒否決定(教高第4189号)が無効であることを確認する。
2 大阪府教育委員会は、原告に対し、「大阪府立●●高校教諭「●●」担当者XXXX」宛てで前項の各決定と同内容の各決定をせよ。
3 主文2項と同旨
4 大阪府教育委員会は、原告に対し、大阪府教育委員会が令和4年7月12日付けで原告に対してした非公開決定(教高第1784号)に係る行政文書のうち存在するものを公開する旨の決定をせよ。
5 主文3項と同旨
6 大阪府教育委員会は、原告に対し、大阪府教育委員会が令和4年7月19日付けで原告に対してした非公開決定(教高第2401号)に係る行政文書のうち存在するものを公開する旨の決定をせよ。
7 被告は、原告に対し、150万円を支払え。
(上記1、2及び7(一部)が丙事件の請求であり、上記3、4及び7(一部)が甲事件の請求であり、上記5、6及び7(一部)が乙事件の請求である。)

第2 事案の概要
 丙事件は、原告が、令和3年11月19日付けで、大阪府教育委員会(処分行政庁)に対し、大阪府情報公開条例(平成11年大阪府条例第39号。以下「本件条例」という。乙2)6条に基づき、行政文書の公開を請求し(以下「本件公開請求1」という。)、大阪府教育委員会から、令和4年3月3日付けで、公開決定、部分公開決定、不存在による非公開決定及び公開請求拒否決定(以下、同各決定を併せて「本件処分1」という。)を受けたところ(甲6の1から甲6の4まで及び甲7参照)、本件処分1は、請求者である大阪府立高等学校教員である原告を名宛人としてするべきであるにもかかわらず、請求者ではない個人である原告を名宛人としてしたものであるから、違法であるとして、被告を相手に、主位的に本件処分1の取消しを求め、予備的に本件処分1の無効の確認を求め(前記第1の1)、請求者である大阪府立高等学校教員である原告を名宛人として本件処分1と同内容の各決定をすることの義務付けを求める(前記第1の2。以下、丙事件の訴えのうち同義務付けを求める部分を「本件義務付けの訴え1」といい、本件義務付けの訴え1に係る請求を「本件義務付け請求1」という。)とともに、違法な本件処分1により精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料(金額は、甲事件、乙事件及び丙事件の国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求(以下「本件国賠請求」という。)に係る慰謝料として合計150万円とする。)の支払を求める(前記第1の7の一部)事案である。
 甲事件は、原告が、令和4年2月21日付けで、大阪府教育委員会に対し、本件条例6条に基づき、行政文書の公開を請求した(以下「本件公開請求2」という。)が、大阪府教育委員会から、同年7月12日付けで、本件公開請求2は、本件条例4条に反する不適正な請求と認められるなどとして非公開とする旨の決定(以下「本件処分2」という。)を受けたことから(甲1参照)、被告を相手に、本件処分2の取消しを求め(前記第1の3)、当該行政文書のうち存在するものを公開する旨の決定をすることの義務付けを求める(前記第1の4。以下、甲事件の訴えのうち同義務付けを求める部分を「本件義務付けの訴え2」といい、本件義務付けの訴え2に係る請求を「本件義務付け請求2」という。)とともに、違法な本件処分2により精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求める(前記第1の7の一部)事案である。
 乙事件は、原告が、令和4年7月5日付けで、大阪府教育委員会に対し、本件条例6条に基づき、行政文書の公開を請求した(以下、「本件公開請求3」といい、本件公開請求1及び本件公開請求2と併せて「本件各公開請求」という。)が、大阪府教育委員会から、同月19日付けで、本件公開請求3は本件条例4条に反する不適正な請求と認められるなどとして非公開とする旨の決定(以下、「本件処分3」といい、本件処分1及び本件処分2と併せて「本件各処分」という。)を受けたことから(甲2参照)、被告を相手に、本件処分3の取消しを求め(前記第1の5)、当該行政文書のうち存在するものを公開する旨の決定をすることの義務付けを求める(前記第1の6。以下、乙事件の訴えのうち同義務付けを求める部分を「本件義務付けの訴え3」といい、本件義務付けの訴え1及び本件義務付けの訴え2と併せて「本件各義務付けの訴え」という。また、本件義務付けの訴え3に係る請求を「本件義務付け請求3」といい、本件義務付け請求1及び本件義務付け請求2と併せて「本件各義務付け請求」という。)とともに、違法な本件処分3により精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求める(前記第1の7の一部)事案である。

1 本件条例の定め
(1)前文
 本件条例前文は、情報の公開は、府民の府政含の信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである、府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている、このような精神のもとに、府の保有する情報は公開を原則とし、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護しつつ、行政文書等の公開を求める権利を明らかにし、併せて府が自ら進んで情報の公開を推進することにより、「知る権利」の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与するため、本件条例を制定する旨規定する。
(2)目的
 本件条例1条は、本件条例は、行政文書及び法人文書の公開を求める権利を明らかにし、行政文書及び法人文書の公開に関し必要な事項を定めるとともに、総合的な情報の公開の推進に関する施策に関し基本的な事項を定めることにより、府民の府政への参加をよリー層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与することを目的とする旨規定する。
(3)定義
 本件条例2条1項本文は、本件条例において「行政文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。以下同じ。)並びに電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識できない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいう旨規定し、同項ただし書は、ただし、同項1号及び2号に掲げるものを除く旨規定し、同項1号は、実施機関が、府民の利用に供することを目的として管理しているものを掲げ、同項2号は、官報、公報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されているもの(同項1号に掲げるものを除く。)を掲げる。
 同条2項は、本件条例において「実施機関」とは、教育委員会等をいう旨規定する。
(4)実施機関等の責務
 本件条例3条は、実施機関又は実施法人は、行政文書又は法人文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、本件条例を解釈し、運用するとともに、行政文書又は法人文書の適切な保存と迅速な検索に資するための行政文書又は法人文書の管理体制の整備を図らなければならない旨規定する。
(5)請求者の責務
 本件条例4条は、本件条例の定めるところにより行政文書又は法人文書の公開を請求しようとするものは、本件条例1条の目的に則し、適正な請求をするとともに、公開を受けたときは、それによって得た情報を適正に用いなければならない旨規定する。
(6)公開請求権
 本件条例6条は、何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる旨規定する。
(7)公開請求の方法
 本件条例7条1項は、本件条例6条による行政文書の公開の請求(以下「公開請求」という。)は、本件条例7条1項1号から3号までに掲げる事項を記載した書面(以下「請求書」という。)を実施機関に提出することにより行わなければならない旨規定し、同項1号は、氏名及び住所又は居所(法人その他の団体にあっては、その名称、代表者の氏名及び主たる事務所の所在地)を掲げ、同項2号は、行政文書の名称その他の公開請求に係る行政文書を特定するに足りる事項を掲げる。
(8)公開しないことができる行政文書及び公開してはならない行政文書
 本件条例8条1項は、実施機関は、同項1号から5号までのいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができる旨規定する。
 本件条例9条は、実施機関は、同条1号及び2号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない旨規定する。
(9)行政文書の公開の決定及び通知
 本件条例13条1項は、実施機関は、公開請求に係る行政文書の全部又は一部を公開するときは、その旨の決定をし、速やかに、公開請求をしたもの(以下「請求者」という。)に対し、その旨及び公開の実施に関し必要な事項を書面により通知しなければならない旨規定する。
 同条2項は、実施機関は、公開請求に係る行政文書の全部を公開しないとき(本件条例12条の規定(行政文書の存否に関する情報に関する規定)により公開請求を拒否するとき及び公開請求に係る行政文書を管理していないときを含む。)は、その旨の決定をし、速やかに、請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない旨規定する(本件条例13条1項及び2項の決定を、以下「公開決定等」という。)。
 同条3項柱書きは、実施機関は、同条1項の規定による行政文書の一部を公開する旨の決定又は同条2項の決定をした旨の通知をするときは、当該通知に同条3項1号及び2号に掲げる事項を付記しなければならない旨規定し、同項1号は、当該通知に係る決定の理由を掲げる。

2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに後記の証拠(枝番号のある書証は特に明記しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告
 原告は、平成24年4月、大阪府公立学校教員(高等学校、政治経済)として採用され、同月以降、●●高等学校において、平成28年4月以降、●●高等学校においてそれぞれ勤務した後、令和2年4月以降、●●高等学校において勤務している。
(争いのない事実)
(2)公開請求
ア 原告は、令和3年11月19日付けで、実施機関である大阪府教育委員会に対し、行政文書の名称等を別紙「令和3年度●●高校「●●」における行政文書公開請求」の「1」から「52」まで記載の文書として、公開請求をした(本件公開請求1)。
 原告は、本件公開請求1に係る請求書の請求者欄の「氏名」欄に「大阪府立●●高等学校「●●」担当者XXXX」と記載し、「住所又は居所」欄に勤務先の大阪府立●●高等学校の所在地を記載した。
(甲6、7、11、乙3、乙12の7、弁論の全趣旨)
イ 原告は、令和4年2月21日付けで、大阪府教育委員会に対し、行政文書の名称等を「府立●●高校のXX教諭が令和3年度に「●●」の授業で配布した授業資料および視聴させた映像資料の全て」として、公開請求をした(本件公開請求2)。
(甲1)
ウ 原告は、令和4年7月5日付けで、大阪府教育委員会に対し、行政文書の名称等を下記のとおりとして、公開請求をした(本件公開請求3)。

「A.府立●●高校、●●高校、●●高校、●●高校について
1.体育の水泳実技に参加できない生徒に対して課しているレポート課題の内容がわかる資料
2.上記1.のレポート課題が現行学習指導要領に基づいてどのように評価されるのか分かる資料
3.上記1.のレポート課題がどのように現行学習指導要領に基づいているのか分かる資料
4.上記1.のレポート課題の分量および内容が正当である根拠
 B.現行学習指導要領体育編において、『入学年次においては、「B器械運動」、「C陸上競技」、「D水泳」及び「Gダンス」についてはこれらの中から一つ以上を、「E球技」及び「F武道」についてはこれらの中から一つ以上をそれぞれ選択して履修できるようにすること。その次の年次以降においては、「B器械運動」から「Gダンス」までの中から二つ以上を選択して履修できるようにすること。』とあることについて
1.上記に「選択して履修できるよう」とあるにも関わらず、府立●●高校においては生徒に選択の余地を与えず特定の領域を強制させている事実がわかる文書
2.上記に「選択して履修できるよう」とあるように、府立●●高校においてはどのように領域を選択させているのかわかる文書
3.上記1.2.について●●高校、●●高校、●●高校について同様の文書」
 原告は、本件公開請求3に係る請求書において、上記のほか、「※なお、この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示および同前校長●●●●の絶賛によるもめです。」と記載した。
(甲2、乙6)
(3)非公開決定等
 ア 大阪府教育委員会は、令和3年12月3日付けで、本件公開請求1について、公開決定等の期限の特例を定める本件条例15条1項に基づき、公開決定等をする期限を令和4年3月3日までとするなどし、これを原告に通知した(以下「本件期限特例通知」という。)。大阪府教育委員会は、本件期限特例通知を、原告に郵送した通知書でもってしたところ、その封筒の宛先に、大阪府立●●高等学校の所在地を記載するともに、「大阪府立●●高等学校「●●」担当者XXXX様」と記載した。
 大阪府教育委員会は、令和4年3月3日付けで、本件公開請求1について、別紙「令和3年度●●高校「●●」における行政文書公開請求」の「7」記載の行政文書の全部を公開する旨の決定(公開決定)、同別紙の「32」記載の行政文書の一部を公開する旨の決定(部分公開決定)、同別紙の「1」から「6」まで、「8」から「31」まで、「33」、「35」から「48」まで及び「50」から「52」まで記載の行政文書につきこれを管理していないことを理由とする当該文書の全部を公開しない旨の決定(不存在による非公開決定)並びに同別紙の「34」及び「49」記載の行政文書につき当該行政文書が存在しているか否かを答えるだけで本件条例10条1項2号に掲げる情報を公開することになるため当該行政文書の存否を明らかにしないで公開請求を拒否することを理由とする当該文書の全部を公開しない旨の決定(公開請求拒否決定)をした(教高第4189号。本件処分1)。大阪府教育委員会は、原告に通知書を送付して本件処分1を原告に通知するに当たり、その宛先に、原告の自宅住所を記載するとともに、「XXXX様」と記載した。
(甲6から8まで、10、11、乙2、弁論の全趣旨)
 イ 大阪府教育委員会は、同年7月12日付けで、本件公開請求2について、本件公開請求2に係る行政文書の全部を公開しない旨の決定(非公開決定)をし(教高第1784号。本件処分2)、これを原告に通知した。
 本件処分2に係る通知には、本件処分2の理由すなわち公開しない理由として、本件公開請求2は、請求人本人(原告本人)が作成した文書が対象となっていることから、本件条例前文に定められた「知る権利の保障」の趣旨を逸脱する請求であり、本件条例4条に反する不適正請求と認められるものであるため、本件公開請求2を却下とし、本件条例13条2項に基づき非公開とする旨付記されている。
(甲1)
 ウ 大阪府教育委員会は、同月19日付けで、本件公開請求3について、本件公開請求3に係る行政文書の全部を公開しない旨の決定(非公開決定)をし(教高第2401号。本件処分3)、これを原告に通知した。
 本件処分3に係る通知には、本件処分3の理由すなわち公開しない理由として、本件公開請求3は、その個別の内容のほとんどは明らかに存在するはずのない文書の公開を求めるものである、また、本件公開請求3は、「※なお、この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示及び同前校長●●●●の絶賛によるものです」との文章を含んでいたものであるが、当該記載に係る事実は処分庁の調査の結果一切存在しなかった、記載されている氏名の者があたかもそのような指示等を実際に行ったと誤認させ得る記載は、請求文書の内容を問わず、記載されている氏名の者の社会的信用を殊更に低減させることが主な意図であると推認されるものであり、本件条例前文に定める「知る権利の保障」という情報公開請求の趣旨から逸脱するものである、よって、本件公開請求3は、本件条例4条に反する不適正請求と認められるため、本件公開請求3を却下し、本件条例13条2項に基づき非公開とする旨付記されている。
(甲2)
(4)本件各訴えの提起等
 原告は、令和5年1月2日、本件各訴えを提起した。
 原告は、同年4月6日、丙事件について、予備的に本件処分1の無効の確認を求める旨の訴えの追加的変更をした(前記第1の1(予備的請求))。
(顕著な事実)

3 争点
(1)本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由があるといえるか(本案前の争点)。
(2)本件処分1について、処分の名宛人を誤った違法があるとして、本件処分1に取消事由ないし無効事由があるといえるか。
(3)本件処分2について、本件公開請求2が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求2を却下することは違法か。
(4)本件処分3について、本件公開請求3が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求3を却下することは違法か。
(5)被告が、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された理由に加え、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることを主張することは許されるか。
(6)本件各義務付けの訴えの適法性(本案前の争点)
(7)本件各義務付け請求の可否
(8)本件国賠請求の可否等

4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由があるといえるか(本案前の争点)。)について
(原告の主張)
 本件処分1の取消しの訴えを提起したとき(令和5年1月2日)は、原告が本件処分1(令和4年3月3日付け)があったことを知った日から6か月を経過していた。
 しかし、本件処分1は、後記(2)(原告の主張)のとおり、処分の名宛人を誤ったものであって、本来の請求者宛てにされたものではないから、原告は、本件処分1が法的に無効なものであると認識していた。そうしたところ、令和4年10月6日付け文書(甲20)に同封されていた書面(甲11)により、「あなたが令和4年9月6日に送付したFAXの文面に、「教高第4189号(公開、部分公開)について『請求者の名義および納入通知書の送付先が異なりますので、法的に無効な決定です』」との記載がありましたが、当該決定通知はあなたが了知可能な状態に置かれており無効な決定ではありません。」と通知されたことから、原告は、大阪府教育委員会が本件処分1を法的に有効なものであると認識していると知った。したがって、原告は、事実上、上記通知がされた日(令和4年10月6日付け文書と同封して上記通知の書面が送付されたとき)をもって、処分があったことを知ったというべきである。
 また、大阪府教育委員会は、職務上入手した原告個人の個人情報を流用して原告宛ての本件処分1に係る通知書を発出したのであり、仮に原告が大阪府公立学校教員でなかった場合には、そのようなことはあり得ないため、平等原則に反している。
 したがって、本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由がある。
(被告の主張)
 本件処分1の取消しの訴えは、出訴期間を経過した後に提起されたものであり、出訴期間の徒過に正当な理由は認められない。
 したがって、本件処分1の取消しの訴えは、不適法である。

(2)争点(2)(本件処分1について、処分の名宛人を誤った違法があるとして、本件処分1に取消事由ないし無効事由があるといえるか。)について
(被告の主張)
 本件条例6条は、何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる旨規定するところ、公開請求の請求書における請求者については、個人か団体かだけを区別して記載するようにしており(本件条例7条、大阪府情報公開条例施行規則(平成12年大阪府規則第226号。以下「本件規則」という。)2条1項)、公開請求に対する公開。非公開等の決定も、公開請求の対象文書の記載内容に基づいて行うものとし、請求者の肩書や地位等を考慮するものとはしていない(本件条例8条以下)。そもそも情報公開制度は、実施機関の保有する行政文書の公開を確保し、その文書の内容を見ることができるようにするところに本質があり、その本質からしても請求者の肩書や地位等を考慮するようにはなっていない。
 したがって、本件公開請求1の請求者及び本件処分1の名宛人は飽くまで原告であり、原告個人と区別される「教員としての原告」というものを別個独立に考えるべきものではない。本件処分1に係る通知書は、原告に宛てて原告の自宅に送付し、原告にその内容を確認する機会を与えればよいのであって、原告個人と区別される「教員としての原告」に宛てて原告の勤務校に送付しなければならないものではない。本件処分1に係る通知書は、原告の自宅に送付され、原告はその内容を確認する機会を与えられた。そして、本件公開請求1について、請求者の団体該当性が問題となる余地はない。
 以上によれば、本件処分1は適法である。
 なお、本件公開請求1は、原告の授業の一環ないし原告の教員としての職務の一環などと認められるものではなく、大阪府教育委員会の情報公開業務に時間と手間を掛けさせるためだけに行われたものであることからも、原告個人と区別される「教員としての原告」が職務として行ったものとは認められない。
(原告の主張)
 原告は、大阪府立高等学校教員の職務上の行為として、また、「●●」の授業の一環として、生徒から請求内容を募り、本件公開請求1をした。原告は、本件公開請求1に係る請求書の「氏名」欄に「大阪府立●●高等学校教諭「●●」担当者XXXX」と記載し、「住所又は居所」欄に大阪府立●●高等学校の所在地を記載した。
 公開請求に肩書が付いていれば、当然その肩書を持つ者として請求したものと認められる。ところが、大阪府教育委員会は、本件処分1に係る通知書を原告の自宅に個人名宛てで送付しており、本来の請求者ではない者に対して本件処分1をしたのであり、本件処分1は名宛人を誤っているから、違法である。この点について、本件期限特例通知に係る通知書は「大阪府立●●高校教諭「●●」担当者XXXX」宛てに送付されており、本件期限特例通知の送付先及び宛先と本件処分1に係る通知書の送付先及び宛先とが異なっており、整合がとれていない。
 また、本件公開請求1の請求者の名義からすれば、請求者が法人ではない団体に該当するか、団体の当事者能力があるかについて、確認する必要があったにもかかわらず、大阪府教育委員会は、そのような確認をしなかった。したがって、本件処分1には手続上の不備がある。
 本件処分1は、本来の請求者でない者を処分の名宛人としてしたものであり、また、手続上の不備があり、違法であるから取り消されるべきである。また、その瑕疵は、重大かつ明白であるから、本件処分1は無効である。

(3)争点(3)(本件処分2について、本件公開請求2が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求2を却下することは違法か。)について
(被告の主張)
 ア 本件公開請求2の対象文書は、原告が令和3年度の勤務校での担当授業において原告自身が生徒に配布した授業資料及び視聴させた映像資料であるから、原告自身が保管するなどし、自由に見たり利用したりすることができるものである。仮に大阪府教育委員会が上記対象文書の公開等をしようとすれば、原告自身から上記対象文書の交付を受けるなどしなければならない。
 原告が本件公開請求2において上記のような対象文書の公開請求をすることは、権利の濫用に当たる。
 イ 原告は、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にある。具体的には、原告の大阪府教育委員会に対する公開請求の件数は、平成30年度に6件、平成31年度に41件、令和2年度に70件、令和3年度には78件、令和4年度の令和4年4月から同年8月までで23件であり、その中には明らかな権利濫用の事案が含まれている。そして、原告は、大阪府教育委員会による非公開決定等に対する審査請求もしており、処分庁及び審査庁(いずれも大阪府教育委員会であるところ、所管課は異なる。)は、審査請求手続対応の事務処理に過大な負担を強いられている。
 このような実情が背景にあることは、本件公開請求2が権利の濫用に当たることが一層明らかになるものといえる。
 ウ 背景や経緯
(ア)本件公開請求2の背景や経緯として次の事情が挙げられる。
 原告は、平成28年4月から令和2年3月まで大阪府立●●高等学校に配置されたところ、平成30年度からの同校の教頭が●●●●(以下「●●教頭」という。)であり、平成31年度からの同校の校長が●●●●(以下「●●校長」という。)である。原告は、同校在籍中から、●●校長や●●教頭、同僚教員による学校運営等に不満を持ち、不当な言動をしたり、自己申告票に当てつけのような記載をしたり、授業時に生徒に対しても●●校長等を非難したり、同校から大阪府立●●高等学校への異動を命ずる人事発令を不服とする審査請求においても一方的な主張を繰り返し、人事発令が原告の希望とは異なる内容であったことから●●校長への不満、不服を募らせ、人事発令は、原告が●●校長による隠ぺいを忌避するための証拠収集として情報公開請求等を行っていたことに対する報復であるなどと不当に主張したりするなどしてきた。
 このような中で、原告は、平成31年頃から公開請求や非公開決定等に対する審査請求を多発、乱発するようになったところ、それは、公開請求により文書等を知りたいというより、原告が不満を抱く●●校長等による学校運営等についての「根拠がわかる文書」などといった形で、当該文書が存在しないことが客観的に明らかであるにもかかわらず公開請求をしたりすることなどを数多く繰り返していた。また、原告は、公開請求の請求書に●●校長等を中傷するような記載をしたり、原告が自ら作成、利用した授業の教材、試験問題、原告自身が勤務校において容易に確認等をすることができる文書の公開請求をあえてしたりするなどした。さらに、原告は、生徒が閲覧する課題提供サイトに、公開請求の請求書やその決定書等を●●校長や●●教頭の写真の下にリンクさせ、●●校長等に問題があるかのように誤認させ、その信用を低減、失墜させるようなことをするなどしたり、情報公開制度を利用して●●校長等を不当に追及しようとしたりするなどした。
(イ)原告が本件公開請求2のように自己が最もよく知る文書等の公開請求をするのは、本件公開請求2が初めてではなく、本件公開請求2は、不適正な公開請求をする一環としてされたものであり、単に大阪府教育委員会に手間と時間を掛けさせるためだけにしているものである。
 エ 以上によれば、本件公開請求2は、権利の濫用に当たり、本件条例4条に反する不適正なものであって、大阪府教育委員会はこれに応じる義務はないので、本件公開請求2を去「下して本件処分2をしたことは、違法ではない。
 オ 原告の主張について
(ア)原告は、大阪府教育委員会が、令和3年12月7日の情報公開請求1295号を受け、原告の教材を入手したであろうから、これと同じ本件公開請求2の対象文書を既に入手しているだろうと主張し、本件公開請求2は、大阪府教育委員会の時間と手間を掛けさせるものではない旨主張する。
 しかし、上記情報公開請求1295号は、原告以外の者が公開請求したものであり、その対象文書が本件公開請求2の対象文書と同一かどうか不明であり、仮に同一であったとしても、対象文書が同一というだけであって、本件公開請求2について審査、決裁その他の所要の手続を履践する必要があり、大阪府教育委員会に時間と手間を掛けさせることになるという状況は変わらないし、原告がこれまで乱発してきた不適正な公開請求の一環であるということも変わらない。
 したがって、上記の原告の主張は理由がない。
(イ)原告は、大阪府教育委員会が、補正を求めることなく、本件処分2をしており、違法である旨主張する。
 大阪府教育委員会は、従前、原告の公開請求に対し、細かく補正を求めてきたが、原告は、そのような補正のやり取りの間も不適正な公開請求を繰り返し、また、補正のことで電話した職員に不満を持ち、その職員とのやり取りまでも公開請求をするなどした。
 公開請求に対する補正は、情報公開制度の目的に即した適正な請求がされていることが前提であり、不適正な請求が繰り返されるような場合にまで、大阪府教育委員会が誠実に補正の措置を講じることまで求められるものではない。
 このような観点から、大阪府教育委員会は、令和3年1月頃からは、原告の公開請求に対しては補正することができないものと考え、原則として請求書から読み取れる内容で処理するという方針を取ることとしたものである。これは、本件条例に違反するものではない。
 したがって、上記の原告の主張は理由がない。
(原告の主張)
 ア 本件処分2は、請求人本人が作成した文書を請求する行為が知る権利の保障の趣旨を逸脱する請求であることからこれを認めないというものである。
 原告は、大阪府公立学校教員であるため、原告がした本件公開請求2の対象文書の中には、職務上、原告が入手することができるものが含まれている。しかし、地方公務員である原告には守秘義務がある上、原告には公開決定権がないため、職務上入手することができる文書であったとしても、勝手な判断で外部に公開することや他者と共有することは違法行為となる可能性が高く、また、本件条例に則った情報公開制度を利用しない場合には司法上の救済を受けられないことになる。すなわち、職務上特定の情報を知ることができたとしても、それは情報公開制度の代替にはなり得ず、また、守秘義務違反における違法性を阻却し得ないものであり、本件条例の公開請求権の趣旨からしても、原告が公開請求権及びこれに付随する審査請求権又は提訴権を有していることは明らかである。そして、原告が本件公開請求2の対象文書の作成者であることを理由に公開請求権が阻害されることはあり得ない。原告と他の者が同一の内容の行政文書の公開請求をした場合、その結果に差異があることは許されない。大阪府教育委員会は、原告が大阪府の教職員であることを理由として本件処分2を行っており、差別的取扱いに当たる。
 また、原告は、本件公開請求2をした段階で、既に、第三者による公開請求がされ、大阪府立●●高等学校の校長の求めに応じ、同校長に対し、本件公開請求2の対象文書と同じ文書を交付していた。このことは、「令和3年12月7日の情報公開請求1295号を受けてXX教諭から入手した資料」という記載(乙7の1の2頁5行目)から明らかである。その後、大阪府教育委員会が同校長から上記文書を受け取ったことは明らかであり、仮に大阪府教育委員会が対象文書の公開等をする場合に、原告から対象文書の交付を受ける必要はなかった。被告は、仮に大阪府教育委員会が上記対象文書の公開等をしようとすれば、原告自身から上記対象文書の交付を受けるなどしなければならないから、手間が掛かる旨主張するが、同主張は失当である。
 したがって、本件処分2における対象文書を公開しない理由は失当であり、本件処分2は違法である。
 イ 大阪府情報公開条例解釈運用基準(以下「解釈運用基準」という。甲14の1、乙4参照)は審査基準であるところ、解釈運用基準には、「行政文書又は法人文書の公開請求において、不適正な請求をしようとすることが認められる場合には、請求者に対して、情報公開制度の趣旨及び目的を説明し、適正な請求を行うよう求めるものとする。」(第4条〔運用〕2(11頁))、「不適正な請求が行われた場合にあっては、実施機関は、請求者に対し(中略)請求内容の補正を求めるものとする。」(第4条〔運用〕3(12頁))、「請求に係る情報が膨大又は複雑で、第14条第1項に規定する期間内(公開請求があった日から起算して15日以内)に処理することが困難な場合、担当室・課(所)等は、事務執行上の支障を説明し、請求方法の見直しを求める。」(第7条〔運用〕2(3)(20頁))と記載されている。しかし、実際には、このような手続は踏まれておらず、大阪府教育委員会は、原告に対し、補正を求めた経緯はなく、また、事務執行上の支障を説明し、請求方法の見直しを求めたことはない。
 したがって、本件処分2は、審査基準である解釈運用基準に基づかずにされたものであり、違法である。

(4)争点(4)(本件処分3について、本件公開請求3が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求3を却下することは違法か。)について
(被告の主張)
 ア 本件公開請求3の対象文書は、そのほとんどが存在しないことが客観的に明らかである。
 すなわち、学習指導要領は、体育等の各教科において教育すべき内容や授業時間数等の大綱的基準を規定するものであり、水泳の授業に参加できない生徒に対してレポートを課すかどうか、レポートを課すとした場合の評価やその分量、内容等について規定、記述するようなものではなく、学習指導要領を一読してもそのことは明らかである。また、本件公開請求3に係る請求書の行政文書の名称等の「B」(前記前提事実(2)ウ参照)で引用されている学習指導要領の記述は、高等学校の体育科教員に対し授業の配当年次に関する指示をする記述であり、生徒による領域の選択についての記述ではないことも明らかである。
 イ 本件公開請求3は、原告の勤務校の●●校長や●●教頭の社会的信用を低減、失墜させようとして行ったものであることが認められる。
 すなわち、原告は、本件公開請求3に係る請求書に「※なお、この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示および同前校長●●●●の絶賛によるものです。」と付記した(前記前提事実(2)ウ参照)。●●校長や●●教頭が原告に対して本件公開請求3をするよう指示、絶賛した事実は全くない。原告は、本件公開請求3に係る請求書を見た者が、●●校長や●●教頭が原告に対して本件公開請求3のような不当、不合理な公開請求すなわち大阪府教育委員会から否定されるような公開請求をするよう指示するなどしたかのように誤認するように記載したのである。
 また、原告は、大阪府立●●高等学校等において、水泳の授業に参加できなかった生徒に対し教科書を書き写すレポートを提出させていることや水泳が全ての生徒の履修すべき科目とされていて選択制となっていないことを知悉しているのであるから、「レポート課題が現行学習指導要領に基づいてどのように評価されるのか分かる資料」等の公開請求をすれば、大阪府教育委員会がそのような行政文書は存在しないと応答することも分かっており、そのような中で、上記レポートの在り方や体育の授業ないし履修選択の在り方等について、学習指導要領に適らていないと非難しようとしているものと認められる。そして、原告は、上記のとおり、本件公開請求3に係る請求書に虚偽記載を付記しており、●●校長や●●教頭の任命権者である大阪府教育委員会に対し、●●校長や●●教頭が本件公開請求3を指示、絶賛しており、水泳の授業におけるレポートの在り方や体育の授業ないし履修選択の在り方などの問題に関与しているかのように見せかけ、生徒に対しても、そのように見せるため、下記サイトにリンクさせようとしていたものと考えられる。
 原告は、<この間の被告主張は名誉毀損に該当するため、別途民訴を予定。>、以前の勤務校における授業において、生徒に対し、校長等に関する不満、嫌味、批判等を頻繁に述べていたほか、インターネット上に「課題提供サイト」(乙10)なるものを開設し、そのドメインを「校長死ね」と読める「●●●●」とし、上記サイトから●●校長や●●教頭等の顔写真を閲覧することができるようにしたり、●●校長の写真には「ブラック●●」と記載したり、生徒の課題や授業と全く関係のない原告と校長らとのやり取りの音声や文書、大阪府教育委員会に対して行った全ての公開請求に係る請求書及びこれに対する公開決定書等を閲覧することができるようにしたりしていた。原告は、本件公開請求3についても、上記サイトにおいて公表することを予定していたところ、これを見た者をして、●●校長らが原告に対して本件公開請求3のような不当、不合理なことをするよう指示、絶賛しているかのように誤認させ、●●校長らの社会的信用を殊更に低減、失墜させようとしていたことが認められる。
 ウ 原告は、前記(3)(被告の主張)イのとおり、大阪府教育委員会に対し、平成30年4月頃以降、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあり、このような実情が背景にあることは、本件公開請求3が権利の濫用に該当することが一層明らかになるものといえる。
 エ 本件公開請求3の背景や経緯として、前記(3)(被告の主張)ウ(ア)の事情が挙げられる。
 原告は、これまで大阪府教育委員会に対して公開請求等を乱発する中で、存在しないことが客観的に明らかな文書等を繰り返し公開請求するなどしており、本件公開請求3もその一環として行ったものである。
 また、原告は、これまで●●校長や●●教頭等の信用を低減、失墜させる目的で公開請求をしてきており、その中で、当該公開請求に係る請求書に、本件公開請求3に係る請求書の記載と同一の「この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示および同前校長●●●●の絶賛によるものです。」等の虚偽記載を付記してきており、本件公開請求3は、その一環として行ったものである。
 オ したがって、本件公開請求3は、権利の濫用に当たり、本件条例4条に反する不適正なものであって、大阪府教育委員会はこれに応じる義務はないので、本件公開請求3を去口下して本件処分3をしたことは、違法ではない。
 カ 原告の主張について
 前記(3)(被告の主張)オ(イ)と同じ。
(原告の主張)
 ア 大阪府教育委員会は、本件処分3において、公開しない理由として、本件公開請求3は、その個別の内容のほとんどは明らかに存在するはずのない文書の公開を求めるものであることを主張する。
 しかし、当該文書が存在するかどうかは、請求者において知る由はなく判断することができないので、上記主張は当を得ない。また、本来存在するはずの文書が存在しないことが判明することにより、行政組織運営の問題点が露見し、事態が改善するきっかけにもなり得るので、文書の有無を情報公開制度によって確認すること自体が適正な請求であるといえる。
 また、本件公開請求3に係る請求書における行政文書の名称等の「A」及び「B」のいずれについても当該行政文書は存在し、本件公開請求3の対象文書は、そのほとんどが存在しないことが客観的に明らかであるとはいえない。
 したがって、上記の大阪府教育委員会の主張は失当である。
 イ 大阪府教育委員会は、本件処分3において、公開しない理由として、本件公開請求3は、「※なお、この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示及び同前校長●●●●の絶賛によるものです」との文章を含んでいたことについて、当該記載に係る事実は処分庁の調査の結果一切存在せず、記載されている氏名の者があたかもそのような指示等を実際に行ったと誤認させ得る記載は、請求文書の内容を問わず、記載されている氏名の者の社会的信用を殊更に低減させることが主な意図であると推認されるなどとする(前記前提事実(3)ウ参照)。
 しかし、原告の公開請求の目的や理由によって、公開非公開の判断が左右されるものではない。また、上記の「記載されている氏名の者の社会的信用を殊更に低減させることが主な意図である」との推認は、大阪府教育委員会の身勝手な推測であり、原告にそのような意図はない。
 ●●教頭は、日頃から「訴えたかったら訴えろ。」「あなたの好きにすればいい。」などと発言し、原告が職務上の疑義等について公開請求する際にも同様の発言をしていたから、原告は、●●教頭の指示はあったと認識している。また、●●校長は、原告の行為を絶賛し、原告の公開請求についても絶賛していた。
 したがって、上記の大阪府教育委員会の公開しない理由は失当である。
 ウ 被告は、本件公開請求3について、レポートの在り方や体育の授業ないし履修選択の在り方等について、学習指導要領に適っていないと非難しようとしているものと認められると主張する。
 しかし、そもそも、上記の被告の認識は、被告の思い込みにすぎない。また、仮に原告が非難を目的として公開請求をしたとしても、情報公開制度の趣旨からすれば、行政活動を監視する意味合いが大きいのであり、また、言論の自由は憲法で保障されているから、この点を不適正な請求の理由とするのは失当である。
 エ 実施機関において公開請求が不適正な請求に当たると判断したのであれば、請求者に対し、情報公開制度の趣旨及び目的を説明し、適正な請求を行うよう求めるべきであるところ、本件公開請求3について、そのような経緯はなかった。
 前記(3)(原告の主張)イのとおり、大阪府教育委員会が補正を求めるなどした経緯はなく、本件処分3は、審査基準である解釈運用基準に基づかずにされたものであり、違法である。
 オ 本件処分3は、平等原則に違反するものであり、判断過程における他事考慮に該当するので、違法である。
 カ 以上によれば、本件処分3は違法である。

(5)争点(5)(被告が、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された理由に加え、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることを主張することは許されるか。)について
(原告の主張)
 本件処分2及び本件処分3に係る各通知には、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることが理由として付記されていない。
 したがって、被告が、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることを主張することは許されない。
 被告が、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として上記実情にあることを主張するのであれば、本件処分2及び本件処分3の各通知における理由付記に不備があったことを認めることとなるから、そうであれば、それは、本件処分2及び本件処分3の取消事由となる。
(被告の主張)
 原告がこれまで公開請求及びこれに関する審査請求を乱発しているという事実は、本件処分2及び本件処分3の背景や経緯を説明し、本件公開請求2及び本件公開請求3も、その不適正な公開請求の一環としてされたものであり、不適正なものであることを説明するために主張しているものである。
 したがって、処分理由の追加をするものではない。

(6)争点(6)(本件各義務付けの訴えの適法性(本案前の争点))について
(原告の主張)
 本件処分1は、取り消されるべきものであるか、無効である。したがって、原告は、大阪府教育委員会が本来の請求者である大阪府立高等学校教員である原告に宛てて本件処分1と同内容の各決定をすることの義務付けを求めることができる。
 本件処分2及び本件処分3は、いずれも取り消されるべきものである。したがって、原告は、大阪府教育委員会が本件公開請求2及び本件公開請求3の対象となる行政文書のうち存在するものを公開する旨の各決定の義務付けを求めることができる。
(被告の主張)
 本件処分1の取消しの訴えは、前記(1)(被告の主張)のとおり、不適法である。仮に、本件処分1の取消しの訴えが適法であるとしても、原告の本件処分1の取消請求は理由がなく棄却されるべきである。
 原告の本件処分1の無効確認請求、本件処分2の取消請求及び本件処分3の取消請求はいずれも理由がなく棄却されるべきである。
 したがって、本件各義務付けの訴えはいずれも訴訟要件を欠くから却下されるべきである。

(7)争点(7)(本件各義務付け請求の可否)について
(原告の主張)
 前記(6)(原告の主張)のとおり。
(被告の主張)
 本件各義務付け請求はいずれも理由がなく棄却されるべきである。

(8)争点(8)(本件国賠請求の可否等)について
(原告の主張)
 原告は、違法な本件各処分により精神的苦痛を受けた。また、本件各処分をするに当たり、被告が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたとは到底いえず、本件各処分は、故意又は過失による違法な行為によるものである。
 したがって、原告は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料合計150万円の支払を求めることができる。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 国家賠償法1条1項の適用上、処分行政庁の公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と相手の権利利益を侵害するような行為をしたと認められる事情がある場合に限り、違法の評価を受けることになる。大阪府教育委員会の職員は、本件各公開請求を受け、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くして本件各処分を行っており、国家賠償法1条1項の適用上違法はない。
 したがって、本件国賠請求は理由がない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由があるといえるか(本案前の争点)。)について
 前記前提事実(3)ア及び(4)並びに証拠(甲6、乙1)によれば、本件処分1が令和4年3月3日付けでされ、本件処分1に係る通知書が同日付けで作成され、同通知書の請求者欄に「XXXX様」と記載されていたこと、同通知書の送付の宛先に原告の自宅住所が記載されるとともに「XXXX様」と記載されたこと、同通知書には出訴期間についての教示が記載されていたこと、原告は、同月9日付けで、大阪府教育庁教育振興室高等学校課の職員に対し、原告の自宅宛てに本件処分1に係る通知書が送付され、本件処分1において請求者が原告の個人名になっていたが、これはどういう経緯なのかと質問する内容の文書を送付したこと、原告は、令和5年1月2日に本件処分1の取消しの訴えを提起したことが認められる。
 そうすると、原告は、遅くとも令和4年3月9日には本件処分1の通知書の送付を受けたことが認められるから、原告が本件処分1があったことを知った日は遅くとも同日であると認められるので、本件処分1の取消しの訴えは、行政事件訴訟法14条1項所定の出訴期間(6か月)を経過した後に提起されたものであるといえる。
 原告は、前記第2の4(1)(原告の主張)のとおり、本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由がある旨主張する。
 しかし、仮に、原告が、1本件処分1が処分の名宛人を誤ったもので法的に無効なものであると認識していたところ、大阪府教育庁教育振興室高等学校課の担当者から令和4年10月6日頃に送付された書面(甲11)を受けて初めて大阪府教育委員会が本件処分1を法的に有効なものであると認識していると知ったとしても、このような原告の認識は、後記2に照らせば、適切なものではなく、原告の独自の見解に基づくものといえるから、上記書面の送付を受けた日をもって、原告が本件処分1があったことを知った日と評価することはできない。このことに加え、上記のとおり本件処分1に係る通知書には出訴期間についての教示が記載されていたことをも併せ考慮すると、本件処分1の取消しの訴えについて、出訴期間内に訴えを提起することができなかったことにつき正当な理由があるとはいえない。また、本件処分1に係る通知書を原告に宛てて原告の自宅に送付したことについて、本件処分1の通知の効力に影響を及ぼすような平等原則違反があるとはいえない。
 したがって、本件処分1の取消しの訴えは、不適法であり、却下を免れない。

2 争点(2)(本件処分1について、処分の名宛人を誤った違法があるとして、本件処分1に取消事由ないし無効事由があるといえるか。)について
 本件条例は、何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる旨規定し(本件条例6条)、公開請求の主体を限定していないが、本件条例(乙2)及び本件規則(乙3)には、公開請求の主体すなわち請求者が自然人である個人又は法人その他の団体のいずれかであることを前提とする規定があるので(本件条例7条1項1号、本件規則2条1項(様式第1号)、同条2項)、本件条例上、上記二つのいずれかに区別して取り扱うことが求められているといえる一方、本件条例及び本件規則において、請求者が自然人である個人である場合、肩書等により区別して取り扱うような規定はない。
 そうすると、請求者が自然人である個人である場合、当該個人を請求者として取り扱い、当該個人に対して公開決定等をする必要はあるが、それで足りるのであって、同一の個人について肩書等により区別して取り扱う必要はないというべきである。
 原告は、前記前提事実(2)アのとおり、本件公開請求1に係る請求書の請求者欄の「氏名」欄に「大阪府立●●高等学校「●●」担当者XXXX」と記載し、「住所又は居所」欄に勤務先である大阪府立●●高等学校の所在地を記載したが、自然人である個人又は法人その他の団体のいずれかという観点から上記記載をみれば、本件公開請求1の請求者は、原告という自然人である個人であると認められる。この点に関し、本件条例上、請求者である原告という自然人である個人について、「大阪府立●●高等学校「●●」担当者」という肩書のある原告と、このような肩書のない原告とを区別して取り扱う必要がないことは、上記のとおりである。
 本件処分1は、原告の肩書等を記載することなく、本件公開請求1の請求者である原告という自然人である個人に対してされたものであり、本件処分1は、請求者ないし名宛人を誤ったものではなく、この点について違法はない。
 なお、前記前提事実(3)アによれば、大阪府教育委員会は、本件公開請求1に係る情報公開手続において、本件期限特例通知に係る通知書を「大阪府立●●高等学校「●●」担当者」の原告に宛てて原告の勤務先に送付した一方で、本件処分1に係る通知書を原告に宛てて原告の自宅に送付しており、通知書の送付先の取扱いを異にしている。しかし、本件条例に基づく通知としては、いずれの通知書も原告という自然人である個人に対し、その勤務先又は自宅を送付先として送付されたものであるから、いずれの通知も適法な通知といえる。
 原告は、本件公開請求1の請求者の楽義からすれば、請求者が法人ではない団体に該当するか、団体の当事者能力があるかについて確認する必要があるにもかかわらず、大阪府教育委員会は、そのような確認をしなかったので、本件処分1には手続上の不備があると主張する。しかし、上記の本件公開請求1に係る請求書の請求者欄の記載からすれば、本件公開請求1の請求者は、原告という自然人である個人であり、それとは別の法人その他の団体であるとはおよそ考えられず、大阪府教育委員会において、本件公開請求1の請求者について法人ではない団体に該当するかなどを確認する必要があったとはいえない。したがって、上記の原告の主張は採用することができない。
 以上によれば、本件処分1は適法であるから、本件処分1に無効事由はなく、原告の本件処分1の無効確認請求は理由がない。

3 争点(3)(本件処分2について、本件公開請求2が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求2を却下することは違法か。)について
(1)本件条例には、公開請求が権利の濫用に当たる場合にこれを却下することができる旨の明文の規定はない。しかし、本件条例は、情報公開制度の趣旨や目的が、「知る権利」の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、府民の府政への参加を一層促進すること等にあることを前提に、公開請求権を権利として保障する一方で(本件条例の前文、1条、3条及び6条。前記本件条例の定め(1)、(2)、(4)及び(6))、請求者の責務として、本件条例の定めるところにより行政文書又は法人文書の公開を請求しようとするものは、本件条例1条の目的に則し、適正な請求をしなければならない旨規定しており(本件条例4条。前記本件条例の定め(5))、本件条例に基づく公開請求について、権利の濫用は許されないという一般法理の適用は否定されず、当該公開請求が権利の濫用に当たる場合には実施機関は当該公開請求を却下するとして非公開決定をすることができると解される。
 もっとも、本件条例の目的等、実施機関等の責務及び公開請求権に係る規定(本件条例の前文、1条、3条及び6条)等の内容に照らせば、本件条例は、公開請求権を権利として広く保障しているといえるから、本件条例に基づく公開請求が権利の濫用に当たり許されないとの判断は慎重であることを要するというべきであり、当該公開請求の目的や態様、非公開決定に至るまでの実施機関と請求者とのやり取り、当該公開請求に係る事務処理を行うことによる実施機関の業務への支障等の個別的事情を勘案し、当該公開請求が、本件条例が規定する情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱するものといえる場合に限り、権利の濫用に当たり許されないものと解するのが相当である。
(2)前記(1)の観点から、本件公開請求2が権利の濫用に当たり許されないものといえるかについて検討する。
 ア 大阪府教育委員会は、本件処分2に係る通知において、本件公開請求2が本件条例4条に反する不適正な請求であることの理由として、本件公開請求2は、請求者本人である原告本人が作成した文書が対象となっていることを付記し(前記前提事実(3)イ)、被告も、本件公開請求2が権利の濫用に当たる主な理由として、本件公開請求2の対象文書が、原告自身が保管するなどし、自由に見たり利用したりすることができるものであることを主張する。
 しかし、本件条例2条1項は、公開請求の対象となる行政文書について定義するものであるところ(前記本件条例の定め(3))、同項の定義の内容に照らすと、請求者自身が作成、保管しているものについても、行政文書の定義から除外されていない。また、同項ただし書は、同項本文所定のものから、「実施機関が、府民の利用に供することを目的として管理しているもの」(同項1号)及び「官報、公報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されているもの」(同項2号)を除外しているところ、これらの文書は、一般に容易に入手、閲覧等が可能なものであることから、公開請求の対象から除外しているものと解される。そうすると、本件条例の規定上、請求者自身が作成、保管している文書であっても、公開請求の対象である行政文書から除外されるわけではない。
 また、本件条例8条及び9条は、公開しないことができる行政文書及び公開してはならない行政文書を規定するところ(前記本件条例の定め(8))、いずれも、行政文書に記録されている情報の内容により、当該行政文書を公開しないことができ、又は、公開してはならない旨規定するものであって、請求者自身が作成、保管している文書について、公開しないことができ、又は、公開してはならない旨を規定するものではない。
 以上によれば、本件条例上、請求者自身が作成、保管する文書であっても、公開請求の対象とすることは制限されておらず、そのことをもって非公開事由に当たるということもできない。そうすると、本件公開請求2について、請求者である原告が作成、保管する文書が対象となっていることは、他の事情と相まって情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱すると評価されることはあり得るとしても、その一事をもって直ちに情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱するものと評価することはできない。
 また、本件公開請求2の対象文書の内容(前記前提事実(2)イ)に照らせば、実施機関がこれに対応するために、大阪府立●●高等学校を通じるなどして当該文書を作成した原告自身に対する照会等が必要となるとしても、このような過程を経る必要があることをもって、本件公開請求2に対する公開決定等をすることにより実施機関である大阪府教育委員会の業務に大きな支障が生じるとは認められない。加えて、原告は、本件公開請求2の目的について、原告が作成、保管している文書であっても、地方公務員である原告が守秘義務に反しない形で外部に公開し又は他者と共有するためには情報公開請求によって対象文書を入手する必要がある旨主張しているところ、その主張内容の当否はともかく、上記のような目的があることをもって、本件公開請求2が、情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱するものと評価することもできない。
 したがって、本件公開請求2が請求者である原告が作成した文書が対象となっていることや、本件公開請求2の対象文書が、原告自身が保管するなどし、自由に見たり利用したりすることができるものであることをもって、本件公開請求2が権利の濫用に当たり許されないものであるということはできない。
 イ
 (ア)被告は、前記第2の4(3)(被告の主張)イのとおり、原告は、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあり、その中には明らかな権利濫用の事案が含まれていること等を、本件公開請求2が権利の濫用に当たる理由の一つとして主張する。
 そして、証拠(乙11、13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大阪府教育委員会に対し、多数の公開請求及び非公開決定等に対する審査請求をしており、平成30年度に6件、平成31年度(令和元年度)に41件、令和2年度に70件、令和3年度に78件、令和4年度の令和4年4月から同年8月までに23件(平成30年4月から令和4年8月までで合計218件)の公開請求をし、これを受けて、大阪府教育委員会がいずれの公開請求についても公開決定等をしたことが認められる(なお、乙11のNo.188が本件公開請求2及び本件処分2のものであり、乙11のNo.213が本件公開請求3及び本件処分3のものであると解される。)。これらの事実からすれば、原告は、大阪府教育委員会に対し、平成30年4月から令和4年8月までの間に218件もの相当多数の公開請求をし、これに対応するため、実施機関である大阪府教育委員会において、相当量の作業が生じたことを推認することはできる。
 (イ)しかし、本件条例は、公開請求に係る行政文書が著しく大量であるため事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には、公開決定等の期限の特例により対応することとしており(本件条例14条、15条。甲14の3、乙2参照)、その他の本件条例の規定も踏まえても、請求者の本件条例に基づく公開請求が相当多数であるというだけでは、当該公開請求が権利の濫用に当たるということはできず、原告が相当多数の公開請求をし、これにより大阪府教育委員会に相当量の作業が生じたため、事務の遂行に一定の支障が生ずるおそれがあったとしても、本件条例上は、上記の公開決定等の期限の特例により対応することが求められているというべきである。
 また、証拠(乙11)によれば、上記の原告の218件の公開請求に対して218件の公開決定等がされたところ、このうち、公開決定等の期限(公開請求があった日から起算して15日以内。本件条例(乙2)14条1項参照)の日を経過してから公開決定等がされたものは69件(約32%)(乙11のNo.8、10、11、13、15、17、23、35、44、45、48から54まで、56(ただし、一部)、57、65、68、74、75、77、86、89、94、96、98、102から109まで、117、119、120、134、138、145、147、150、152、156から158まで、167、170、172から175まで、177から179まで、182、184から190まで、195、200及び209。なお、乙11のNo.176の「公開決定日」欄の入力が誤っているため、No.176が公開決定等の期限を経過してから公開決定等がされたものであるか否かは、証拠上、判然としない。)、公開請求があった日から起算して2か月を経過してから公開決定等がされたのは11件(約5%)(乙11のNo.50、89、98、103、138、167、175、178、184、188及び200)、公開請求があった日から起算して6か月を経過してから公開決定等がされたのは2件(約1%)(乙11のNo.103及び184)であったことが認められる。これらの事実からすれば、大阪府教育委員会は、約68%については本件条例14条1項の定める公開決定等の期限内に公開決定等をし、その約95%については公開請求があった日から起算して2か月以内に公開決定等をし、その約99%については公開請求があった日から起算して6か月以内に公開決定等をしており、原告の公開請求に対する大阪府教育委員会の作業が大幅に遅れているわけではなく、本件公開請求2がされた令和4年2月並びに本件公開請求3、本件処分2及び本件処分3がされた同年7月の時点で、大阪府教育委員会において、原告の公開請求に対する対応自体が滞るほどの業務への著しい支障が生じていたと認めることは困難である。
 さらに、原告の非公開決定等に対する審査請求については、上記のとおり、原告が多数の審査請求をしていることは認められるが、本件で問題となっているのは、原告の公開請求であって審査請求ではない上、原告の非公開決定等に対する審査請求に対応するため、大阪府教育委員会において、原告の公開請求に対する対応自体が滞るほどの業務への著しい支障が生じていたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 (ウ)被告は、原告の平成30年4月頃以降の公開請求の中には明らかな権利濫用の事案が含まれていると主張し、その中で14件の原告の公開請求を取り上げている(乙12参照)。
 しかし、証拠(乙11、12)によれば、大阪府教育委員会において、上記14件のうち当該公開請求が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正な請求であるとして当該公開請求を却下したものは、わずかに1件(乙12の9)にすぎず、その他の13件については、権利の濫用に当たるとはせずに公開決定等をしたことが認められる(乙12と乙11との対応関係は次のとおりである。すなわち(乙12の1が乙11のNo.61(決定区分は不存在非公開)に、乙12の2が乙11のNo.62(決定区分は不存在非公開)に、乙12の3が乙11のNo.66(決定区分は公開)に、乙12の4が乙11のNo。103(決定区分は非公開(申立て不適法。ただし、本件条例4条に反する不適正な請求であることを理由とするものではなく、対象となる行政文書の不特定を理由とするもの))に、乙12の5が乙11のNo.112(決定区分は公開及び不存在非公開)に、乙12の6が乙11のNo。151(決定区分は不存在非公開)に、乙12の7が乙11のNo。167(決定区分は公開、部分公開、不存在非公開及び存否応答拒否)に、乙12の8が乙11のNo.169.(決定区分は不存在非公開)に、乙12の9が乙11のNo.200(決定区分は非公開(申立て不適法。本件条例4条に反する不適正な請求であることを理由とするもの))に、乙12の10が乙11のNo.203(決定区分は存否応答拒否及び不存在非公開)に、乙12の11が乙11のNo.204(決定区分は不存在非公開及び存否応答拒否)に、乙12の12が乙11のNo.207(決定区分は存否応答拒否)に、乙12の13が乙11のNo.208(決定区分は不存在非公開)に、乙12の14が乙11のNo.210(決定区分は存否応答拒否)にそれぞれ対応する。)。しかも、大阪府教育委員会が権利の濫用に当たるとした上記1件(乙12の9、乙11のNo.200)は、当該公開請求に係る対象文書につき、●●校長と「インペイ・●●CEO」との関係が分かる文書、●●教頭と「ネツゾウ・●●CTO」との関係が分かる文書などといった明らかに●●校長や●●教頭の社会的評価を低下させるような内容の記載をした上で、この行政文書公開請求は●●教頭の指示や●●校長の絶賛によるものである旨付記するなどしたことから、情報公開請求の趣旨から逸脱する不適正請求とされたことが認められるのであって、本件公開請求2及び本件公開請求3に係る各請求書の記載とはその内容を異にするものである。
 そうすると、被告が取り上げた上記の原告の14件の公開請求は、明らかな権利の濫用事案とはいい難いものや、本件公開請求2とは請求書の記載内容等を異にするものといえるから、原告が、上記14件の公開請求をしたという経緯を踏まえても、本件公開請求2が権利の濫用に当たるということはできない。
 (エ)以上によれば、上記の被告の主張を踏まえても、本件公開請求2が権利の濫用に当たり許されないものであるということはできない。
 ウ 被告は、前記第2の4(3)(被告の主張)ウのとおり、本件公開請求2の背景や経緯として、原告が勤務校において●●校長等による学校運営等に不満を抱くようになり、不当な言動をしたり、授業時に問題となる行動をしたり、人事発令について不当な主張をしたりしたことなどを挙げ、本件公開請求2は、不適正な公開請求の一環としてされたものであり、単に大阪府教育委員会に手間と時間を掛けさせるためだけにしているものである旨主張する。
 しかし、被告が本件公開請求2の背景や経緯として主張する原告の不当な言動等については、仮に原告がそのような言動等をしたことが認められるとしても、それは、大阪府教育委員会や原告の勤務校において、大阪府公立学校教員である原告に対する指導、研修、人事評価、処遇等の中で対処すべきものであり、本件公開請求2に至る背景事情として、原告が●●校長等に不満を抱いたり人事発令に不服申立てをしたりするなどしてきたという経緯があったということをもって、直ちに、本件公開請求2の目的が専ら大阪府教育委員会に手間と時間を掛けさせるためだけにあるものと評価することはできない。
 また、証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、多数の公開請求をしているが、本件条例に基づいて公開請求をしている上、多数の公開決定又は部分公開の決定を受け、実際に行政文書の公開が実施され、公開された行政文書の閲覧等をしていると認められるのであり、少なくとも本件処分2及び本件処分3がされた令和4年7月の時点において、原告が、およそ無意味な公開請求を繰り返していたとまで評価することはできない。 以上によれば、上記の被告の主張を踏まえても、本件公開請求2が権利の濫用に当たり許されないものであるということはできない。
 エ なお、本件条例に係る解釈運用基準においては、一般に、公開請求が不適正な請求に当たるのであれば、実施機関において、請求者に対し、適正な請求を行うよう求めたり請求の見直しを求めたりするなどして補正を求めることが予定されていたと認められるから(甲14の1、乙4参照)、実施機関が請求者に補正を求めたにもかかわらず、請求者がこれに適切に応じなかった場合には、実施機関は、そのことを当該公開請求が権利の濫用に当たることの一事情として斟酌することはできると解されるところ、弁論の全趣旨によれば、大阪府教育委員会は、本件公開請求2について、不適正な請求に当たると考えていたものの、原告に対して補正を求めたことはなかったことが認められる。
 この点について、被告は、前記第2の4(3)(被告の主張)オ(イ)のとおり、大阪府教育委員会は、従前、原告に対して複数回にわたり補正を求めたにも関わらず、原告がこれに応じなかった経過があったことなどから、このような原告の公開請求に係るやり取り(乙19参照)を踏まえ、令和3年1月頃からは、原告の公開請求に対しては補正することができないものと考え、原則として請求書から読み取れる内容で処理するという方
針を取ることとしたと主張する。
 しかし、証拠(乙11(No.103)、乙12の4、乙19)及び弁論の全趣旨によれば、被告が大阪府教育委員会が上記方針を取るようになったことの理由とする原告の公開請求は、原告が授業中に91名の生徒に公開請求の対象文書を記載させ、これを基に公開請求をしたというものであり、請求書のみからは、対象となる行政文書の特定が困難な部分があり、これを特定するために補正を求める必要があるものであったこと、実際、大阪府教育委員会は、当該公開請求に係る行政文書を特定することができず、当該公開請求が不適法な請求であることを理由に、当該公開請求を却下するとして非公開決定をしたことが認められる。そうすると、このような公開請求(乙19参照)は、本件公開請求2とはその内容を異にしているから、上記のような公開請求に係るやり取りがあったからといって、直ちに、大阪府教育委員会が、原告の本件公開請求2について、原告に対し、補正を求める必要がなかったということにはならない。
 そして、証拠(乙11)によれば、大阪府教育委員会が原告の公開請求について権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正な請求であることを理由に公開請求を却下するとして非公開決定をしたのは、令和4年7月12日付けの非公開決定が初めてであり(乙11のNo.188(本件処分2)及びNo.211)、本件処分2より前にそのような非公開決定をしたことはなかったのであるから、本件公開請求2が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正な請求であることを理由として本件処分2をするのであれば、より丁寧に、原告に対し、本件公開請求2についての補正を求めるなどの手順を踏んだ上で本件処分2をする必要があったというべきである。
 オ 以上によれば、被告の主張を総合的に検討しても、本件公開請求2は、本件条例が規定する情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱するものとはいえず、権利の濫用に当たり許されないものとはいえない。
(3)まとめ
 したがって、本件処分2は、違法であり、取消しを免れない。

4 争点(4)(本件処分3について、本件公開請求3が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正なものであるとして本件公開請求3を却下することは違法か。)について
(1)前記3(1)の観点から、本件公開請求3が権利の濫用に当たり許されないものといえるかについて検討する。
 ア 大阪府教育委員会は、本件処分3に係る通知において、本件公開請求3が本件条例4条に反する不適正な請求であることの理由として、@本件公開請求3は、その個別の内容のほとんどは明らかに存在するはずのない文書の公開を求めるものであり、A本件公開請求3は、「※なお、この行政文書公開請求は、府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示及び同前校長●●●●の絶賛によるものです」という記載がされており、記載されている氏名の者があたかもそのような指示等を実際に行ったと誤認させ得る記載は、記載されている氏名の者の社会的信用を殊更に低減させることが主な意図であると推認されるものである旨付記し(前記前提事実(3)ウ)、被告も、本件公開請求3が権利の濫用に当たる主な理由として、@本件公開請求3の対象文書は、そのほとんどが存在しないことが客観的に明らかであること、A本件公開請求3は、原告の勤務校の●●校長や●●教頭の社会的信用を低減、失墜させようとして行ったものであることを主張する。
 しかし、上記@について、本件条例上、実施機関が公開請求に係る行政文書を管理していないときは不存在による非公開決定をすることを前提としており(本件条例13条2項。前記本件条例の定め(9))、実際、証拠(乙11)によれば、大阪府教育委員会は、従前、複数回にわたり、原告の公開請求について、対象文書の不存在を理由とする非公開決定をしたことがあったことが認められる。そして、被告が主張するとおり、本件公開請求3の対象文書のほとんどが存在しないことが客観的に明らかであるのであれば、そのほとんどについては綿密に検討するまでもなく対象文書の不存在を理由とする非公開決定をすれば足りるのであるから、本件公開請求3に対する公開決定等をするために必要な実施機関である大阪府教育委員会の作業も限定的であるといえ、これにより大阪府教育委員会の業務に大きな支障が生じるとは認められない。
 したがって、本件公開請求3の対象文書のほとんどが、明らかに存在するはずのない文書であり、又は、存在しないことが客観的に明らかであるとしても、このことをもって直ちに本件公開請求3の目的が専ら大阪府教育委員会に手間と時間を掛けさせるためだけにあるものと評価することはできない。
 また、上記Aについて、本件公開請求3に係る請求書には「※なお、この行政文書公開請求はく府立●●高校の通称●●●●(●●)前教頭(中略)の指示および同前校長●●●●の絶賛によるものです。」と記載されており、当該記載は、請求書に書く必要がないものである上、少なくとも請求先である大阪府教育委員会や、●●教頭及び●●校長を揶揄するものであることがうかがわれ、適切な記載とはいえない。しかし、●●校長や●●教頭が原告に対して本件公開請求3をするように指示や絶賛をしたという事実がなかったとしても、上記記載から、直ちに原告において●●校長や●●教頭の社会的信用を低減、失墜させようという意図で本件公開請求3をしたとは認めるに足りず、少なくとも、上記記載から直ちに本件公開請求3が権利の濫用に当たるということはできない。実際、証拠(乙11(No.171から174まで、179、180、182から186まで、189から194まで、196から210まで、212から215まで)、乙12の9から12の14まで)によれば、原告は、本件公開請求3以外にも、請求書に上記記載と類似又は同様の記載をして公開請求をしたことがあるところ、当該公開請求に対する大阪府教育委員会の公開決定等において、当該記載をもって当該公開請求が権利の濫用に当たる理由の一つとするものもあるが、一方で、当該公開請求が権利の濫用に当たるとすることなく公開決定等をしたものもあり、このことからも、一概に上記記載のみから権利の濫用に当たるということは困難である。そして、被告は、原告の勤務校における授業等における不当な言動等を取り上げ、これを本件公開請求3が権利の濫用に当たることの一事情として主張するが、前記3(2)ウで述べたとおり、仮に原告がそのような言動等をしたことが認められるとしても、直ちに、本件公開請求3の目的が専ら大阪府教育委員会に手間と時間を掛けさせるためだけにあるものと評価することはできない。
 したがって、本件公開請求3が権利の濫用に当たり許されないものであるということはできない。
 イ 被告は、前記第2の4(4)(被告の主張)ウ及び工のとおり、本件公開請求3についても、本件公開請求2についての主張(前記第2の4(3)(被告の主張)イ及びウ参照)と同様の主張をする。
 しかし、前記3(2)イ及びウと同様の理由から、上記の被告の主張を踏まえても、本件公開請求3が権利の濫用に当たり許されないものであるということはできない。
 ウ 大阪府教育委員会は、原告に対し、本件公開請求3についても補正を求めたことはなかったことが認められ(弁論の全趣旨)、また、本件公開請求3は、本件処分2がされた令和4年7月12日より前の同月5日付けでされ、本件処分3は、本件処分2がされたわずか7日後の同月19日付けでされたものであるから(前記前提事実(2)ウ並びに(3)イ及びウ参照)、前記3(2)エで述べたことは、本件公開請求3についても同様に当てはまる。
 エ 以上によれば、被告の主張を総合的に検討しても、本件公開請求3は、本件条例が規定する情報公開制度の本来の趣旨や目的を著しく逸脱するものとはいえず、権利の濫用に当たり許されないものとはいえない。

(2)まとめ
 したがって、本件処分3は、違法であり、取消しを免れない。

5 争点(5)(被告が、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された理由に加え、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることを主張することは許されるか。)について
(1)被告は、原告が、平成30年4月頃以降、大阪府教育委員会に対し、公開請求及びこれに関する審査請求を乱発している実情にあることを本件公開請求2及び本件公開請求3が権利の濫用に当たることの一事情すなわち本件処分2及び本件処分3の理由の一つとして主張している。
 本件条例13条3項は、部分公開決定又は非公開決定の通知に当該決定の理由を付記しなければならない旨規定するところ(前記本件条例の定め(9))、これは、非公開(部分非公開を含む。)の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的とするものと解される。
 被告は、上記の実情にあることを権利の濫用に当たることの一事情として主張しているが、本件公開請求2及び本件公開請求3について、権利の濫用に当たること以外の非公開事由を追加して主張するものではない。しかし、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された本件処分2及び本件処分3の理由は、前記前提事実(3)イ及びウのとおりであり、上記の実情にあることはその理由とされておらず、また、上記の本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された理由をみても、上記の実情にあることが本件処分2及び本件処分3の理由の一つとされていることをうかがい知ることはできない。
 これらの事情に加え、上記の本件条例の理由付記の目的を踏まえると、上記の実情にあることは、同じく権利の濫用に当たることの一事情ないし一つの理由であるとして主張されるものであるとしても、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された理由に含まれるとはいえず、被告は、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の理由として、上記の実情にあることを追加して主張していると解するのが相当である。
(2)そこで、前記(1)の理由の追加が許されるかについて検討する。
 本件条例の規定をみても、本件条例13条3項の定めが、一たび通知に理由を付記した以上、非公開決定(音5分非公開決定を含む。)の取消訴訟の被告が、当該訴訟において、通知に付記した理由以外の理由を主張することを許さないものとする趣旨を含むと解することはできず、そのような理由を主張することも許されると解するのが相当である。
 したがって、被告が本件訴訟において前記(1)の理由を追加して主張することは許されるというべきである。
 なお、前記(1)の本件条例13条3項の理由付記の目的は、実施機関である大阪府教育委員会が本件処分2及び本件処分3に係る各通知に理由を付記し、これを請求者である原告に通知することでひとまず実現されたといえるのであり、被告が本件訴訟において前記(1)の理由を追加して主張したからといって、本件処分2及び本件処分3の理由付記に不備があるということはできない。

6 争点(6)(本件各義務付けの訴えの適法性(本案前の争点))について
 本件各義務付けの訴えは、いずれも行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えとして提起されたものであると解されるところ、申請型の義務付けの訴えは、当該処分が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるときに限り、提起することができる(同法37条の3第1項2号参照)。
 そうであるところ、前記1及び2で説示したとおり、本件処分1は、取り消されるべきもの又は無効若しくは不存在であるとはいえないから、本件義務付けの訴え1は、同法37条の3第1項2号に規定する要件を満たさない。したがって、本件義務付けの訴え1は不適法である。
 一方、本件義務付けの訴え2及び本件義務付けの訴え3については、前記3及び4のとおり、本件処分2及び本件処分3はいずれも取り消されるべきものであるから、本件義務付けの訴え2及び本件義務付けの訴え3は、いずれも同条1項2号に規定する要件に該当すると認められる。また、本件義務付けの訴え2及び本件義務付けの訴え3がいずれも同条2項及び同条3項2号に規定する要件に該当することは明らかである。したがって、本件義務付けの訴え2及び本件義務付けの訴え3は適法である。

7 争点(7)(本件各義務付け請求の可否)について
 本件義務付けの訴え2及び本件義務付けの訴え3は、いずれも申請型の義務付けの訴えとして提起されたものであると解されるところ、申請型の義務付けの訴えに係る請求が認容されるためには、当該義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁が当該処分をすべきであることが当該処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁が当該処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められることが必要である(行政事件訴訟法37条の3第5項)。
 本件義務付け請求2及び本件義務付け請求3は、本件公開請求2及び本件公開請求3の対象となっている行政文書のうち存在するものを公開する旨の各決定の義務付けを求めるものである。しかし、本件公開請求2及び本件公開請求3は、不適正な請求であることを理由に却下されたことから、対象となる行政文書について実施機関である大阪府教育委員会が管理しているかどうかが明らかでない上、当該行政文書の内容が明らかではないため、当該行政文書が本件条例8条の規定する公開しないことができる行政文書又は本件条例9条の規定する公開してはならない行政文書に該当する可能性がある。そうすると、大阪府教育委員会が当該行政文書を公開する旨の各決定をすべきであることが本件条例の規定から明らかであると認められ又は同各決定をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるということはできない。
 したがって、本件義務付け請求2及び本件義務付け請求3はいずれも理由がない。

8 争点(8)(本件国家賠償請求の可否等)について
(1)前記3及び4のとおり、本件処分2及び本件処分3には取り消し得べき瑕疵がある。しかし、本件条例に基づく本件処分2及び本件処分3に上記瑕疵があっても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分2及び本件処分3をしたと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁、最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・裁判集民事220号165頁参照)。
(2)前記(1)の観点から、本件処分2及び本件処分3についてみるに、前記3及び4のとおり、本件条例に基づく公開請求が権利の濫用に当たり許されないとの判断は慎重を要するというべきところ、本件処分2及び本件処分3に係る各通知に付記された本件処分2及び本件処分3の理由に加え、被告が主張する本件公開請求2及び本件公開請求3が権利の濫用に当たる理由を検討しても、本件公開請求2及び本件公開請求3が権利の濫用に当たり、本件条例4条に反する不適正な請求であるとの判断には理由がないものと認められる。そして、前記3及び4のとおり、実施機関である大阪府教育委員会において、本件公開請求2及び本件公開請求3が権利の濫用に当たり本件条例4条に反する不適正な請求であるとの判断をするに際し、本件公開請求2及び本件公開請求3の目的や態様、これらの公開請求に係る事務処理を行うことによる大阪府教育委員会の業務への支障等について、具体的な事情を適切に考慮したということはできず、また、原告に対し、本件公開請求2及び本件公開請求3についての補正を求めるなどの手順を踏んだ上で、本件処分2及び本件処分3をしたということもできないから、上記の判断をするに際し、非公開決定に至るまでの原告とのやり取り等の具体的な事情を適切に考慮しなかったものといわざるを得ない。
 これらの事情に照らすと、大阪府教育委員会ないし被告の担当職員は職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分2及び本件処分3をしたと認められるから、国家賠償法1条1項の適用上違法なものであるといえ、また、当該担当職員に過失があると認められるから、被告は、上記行為により原告が被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。
(3)原告は、前記(2)の本件処分2及び本件処分3に係る違法な行為により、本件条例に基づく行政文書の公開を求める権利を侵害され、精神的苦痛を被ったと認められる。
 慰謝料の額について検討するに、本件公開請求2及び本件公開請求3の各対象文書の性質、本件処分2及び本件処分3の各内容、本件処分2及び本件処分3に至る経緯、本件処分2及び本件処分3に係るものを含む原告と実施機関である大阪府教育委員会との間のやり取りに加え、上記精神的苦痛は、本件訴訟において、本件処分2及び本件処分3の違法が確認され、これらが取り消されることにより、相当程度慰謝されるものであること等の本件で現れた一切の事情を総合考慮すれば、合計2万円と認めるのが相当である。
(4)以上によれば、原告の本件国賠請求は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料2万円の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

第4 結論
 よって、本件処分1の取消しの訴え及び本件義務付けの訴え1は不適法であるからこれを却下し、原告の本件処分2の取消請求及び本件処分3の取消請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告の本件国賠請求は、被告に対し、2万円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求(本件処分1の無効確認請求(予備的請求)、本件義務付け請求2、本件義務付け請求3及び本件国賠請求のうち上記認容部分以外の部分)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 横田典子
裁判官 田辺暁志
裁判官 立仙早矢