乙第29号証
陳述書
平成30年4月5日
大阪地方裁判所 第25民事部 合議2係 御中
大阪府立成美高校 教諭 太田憲央
1 私は、平成25年4月1日に大阪府公立高等学校教員として任用され、平成25年4月1日から平成30年3月31日まで大阪府立東住吉総合高校(以下「本校」といいます)で勤務していました。
そして、私は、本校で、平成25年度から生徒指導担当を分掌するとともに、本件の生じた平成27年度には、K君の所属していた1年2組の担任をしておりました。
なお、平成27年度の生徒指導主事は古井成知教諭であり、1年次の生徒指導担当として、私のほか、清水耕介教諭、三辻亮平教諭が担当しておりました。同年度の1年次の学年主任は小野恵智子教諭でした。
2 平成27年5月15日(金)の2時間目、1年2組の教室で林智子講師による英語の授業が行われていた中で、K君と男子生徒A(以下「A君」といいます)とのトラブルが生じました。
3 私は、その日の午前は、生徒指導室当番で、校舎1階の生徒指導室で、生徒指導事案が生じたときに対応するため待機していたのですが、2時間目途中の午前10時過ぎに、芝田崇弘教諭(1年2組副担任)から電話で、1年2組の教室でトラブルがあり、今から小会議室で事情聴取を行うので、来てほしいことなどを連絡してきました。本校では、生徒指導事案が生じたときは、生徒指導担当の教員に連絡をとり連携・対応することになっているため、教務部である芝田教諭は、生徒指導部の私に応援を求めてきたものです。(同窓会室と小会議室は、1年次職員室の近くにあり、いずれも校舎3階にあります。K君からの事情聴取を行った小会議室は、入り口が狭い通路状態になっていて、少し奥まったところに10人くらいが入る部屋があるので、静かな環境であるとともに、窓もあって明るい風通しの良い部屋です。)
私は、すぐに小会議室へ向かいました。
途中、校舎2階の事務室前で、清水教諭と会いました。清水教諭は、A君から事情を聴取して、同窓会室を出たとき(A君は同窓会室に残していました)、1年次職員室前に芝田教諭とK君がおり、K君を小会議室に入室させようとしたのですが、小会議室の鍵が閉まっていたため、事務室へ鍵を取りに来ていたのです。
私は、清水教諭から、A君が「K君から一方的に殴られたのでK君を殴り返した」と言っているということを聞きながら、一緒に小会議室へ行きました。
4 そして、清水教諭と私は、K君を伴って小会議室へ入りました。
その後私は、いったん同窓会室の方へ行き、A君から事情を聴取しました。そうすると、A君は、清水教諭の言っていたとおり、「K君から一方的にビンタをされたので、K君にやり返した」と言っておりました(乙14号証のメモ参照)。
それから、私は、小会議室へ行き、K君に対する事情聴取に加わりました。そのとき、芝田教諭に対して、同窓会室にA君が一人でいて、トイレに行きたいなどと1年次職員室へ来る可能性があるので、1年次職員室で待機しておいてほしいと要請し、芝田教諭は小会議室を出ていきました。
そして清水教諭と私がK君とやりとりした結果、K君は、「何も言わずに、後ろかA君の頭部を右手で軽くたたいたが、無視されたので、左手で同生徒の襟をつかんで左斜め後方に引っ張り、A君を座席に座らせようとした。しかし、A君はこれを無視して、隣の女子生徒Bと話を始めたので、再度、A君の襟をつかんで左斜め後方に引っ張り、座席に正しい姿勢で座らせようとした。その際、A君が自分の方へ振り向いたので、何も言わずに、右手の平で同生徒の左頬を強くビンタをした。A君は呆然としていたが、A君が滑稽に見えて自分がにやにや笑ったとき、自分の左頬を右手の平でビンタし、立ち上がって自分の胸元を右手でつかんで引き寄せ、そのため、自分が椅子からずり落ちるようにして、床に尻もちをついた」等と話しました。
5 そうすると、K君もA君も、K君の方が先にA君に対し手を出したことで一致したので、私たちは、「なぜK君が先に手を出すようなことをしたのか」を聞きました。そうすると、K君は、「じゃれあっていた延長で手を出した」などと言っていましたが、じゃれあっていたという状況の説明はなく、また、K君に「普段からじゃれあうような関係なのか」と聞くと、K君は「A君とは、5月の校外学習のときに話をしたか、今日初めて話をしたかという状況である」と言い、A君との接触がほとんど全くなかった状況であることも述べていた状況であり、K君の発言は納得できませんでした。
私たちは、A君が中学校時代に課題があったことをその保護者から聞いていた一方、K君は真面目な生徒であるという印象を持っていたことから、A君がK君に嫌がらせなどをし、K君がそれに怒ってA君に対しビンタをするなどしたのではないか、そして、いじめ被害者によく見られるように、K君はそのことを言いだしにくい状況にあるのではないかなどと推測しながら、K君に対しA君に手を出した理由を聞いたのですが、K君は「じゃれあっていて手を出した」という発言を繰り返しました。K君が「さっきまでA君に話を聞いていたのですよね?それならお察しの通りです」と発言したときに、清水教諭が「自分の口で事情は説明しないといけない。なぜなら、一つは、自分にも手を出した事情、言い分があるはずなのに、説明がないと自分だけが悪いことになる。相手が悪いかもしれないのに相手の言い分だけで自分から説明しないと相手の都合よく終わってしまうからだ。もう一つは、どういう理由にせよ手を出したなら、それは悪いことなので、それについての反省は説明することが初めの一歩になるからだ」と指導したりもしたのですが、K君は「じゃれあっていて手を出した」との発言を繰り返すばかりでした。
(なお、そのやりとりの途中で、清水教諭がK君に対し「A君に対してどういうふうに手を出したのか」と聞いたとき、K君が「じゃあ失礼します」と言って、清水教諭の方へ向き、手を振り上げ、本気でビンタをするような格好をして、非常に驚いた場面もありました。)
私たちは、同窓会室へ行き、A君に対して、K君との関係性を尋ねましたが、A君も「今日殴られたあとに初めてしゃべった」と言っており、K君とA君の接触がこれまでに無かったことでK君と一致していました。
私たちはA君に対し「先にK君が殴ってきたというが、どうして殴られたと思うか」と尋ねましたが、A君は「分からない。むしろこっちが教えてほしい」などと言っており、「A君の方から何か仕掛けたということはないのか」と尋ねても、A君は「そういうことはない」と断言していました。
私たちは、K君のいる小会議室とA君のいる同窓会室を3、4回行ったり来たりして事情聴取しましたが、K君は「じゃれあっていた延長で手を出した」と言い、A君は「突然殴られた」と言い、両者の言い分が一致しないまま変わらないという状況でし
た。
6 このようにしてK君がA君に対し先に手を出した理由がわからない状況で行き詰まってしまいましたが、私たちが小会議室を出たとき、清水教諭が私に、さきほどK君から出身中学が真住中学校であると聞いた、それで思い出したのだが、清水教諭がその年度(平成27年度)の本校入学生の出身中学校を訪問して生徒指導上の情報を収集する担当として、真住中学校を訪問したことがあるが、そのとき、強すぎる正義感を持っているためにいわゆる不良グループの生徒とトラブルを起こした生徒がいるという話が出ていた、ということを話され(ただし、中学校の教員は、指導したことによって、今後はそういうトラブルを起こすことはないだろうということだったそうです。)、その強すぎる正義感を持つ生徒というのがK君のことではないだろうか、A君はふだんから授業中に私語をして騒がしいところがあるので(とはいっても、教員が注意をすれば、私語などはやめる生徒でしたが)、K君がA君のそのような態度を嫌悪してビンタしたのではないかということを言われました。
そこで、私たちは、同窓会室へ行き、A君に対し、K君からビンタされる前の授業中の言動を確認したところ、A君は、右隣の女子生徒Bの方に、席に座った状態で体を乗り出して、女子生徒Bの手を握っていたこと、女子生徒Bが他の女子生徒と課題の教えあいをしていて、「勉強しているから待って」と言ったため、女子生徒Bの手を握ったまま、黙って待っていたこと、女子生徒Bは以前にA君と交際していた相手であり、A君が手を握ってくるのを嫌がっていなかったことなどを話し、A君が授業中に女子生徒の手を握るなどの不適切な行為をしていたことを認めました。
その頃には午前10時45分頃くらいになっていたと思いますが、私たちは小会議室へ行き、K君に対し、「A君に対して授業中に腹が立つことがあったのか」と聞きました。K君は、「それはない」と言いつつ、「ただ、ダメだろうと思うことがあった」と言いました。私たちが「それは何か」と聞くと、K君は「A君が授業中にしゃべっていること、授業中に立ち歩いていること、授業中に女子の手や足を触っていること、この三点について授業中にするべきでない行為としてダメだろうと思った」と応えました。そして、清水教諭が「そのことがA君を殴った原因か」と聞くと、K君は「そうです」と応え、ここで、ようやくK君の方が先にA君に手を出した理由がわかりました。
K君は、私たちとやりとりをする中で、「中学の時から素行の悪い生徒とこういうことが何度かあった。またしてしまった」と言っていたので、私たちは、「授業中にうるさくしているクラスメイトに静かにするよう注意することは良いことだ」とK君の行動を評価しつつも、「しかし、そういう場合は口で注意するとか、担任や教科担当者に相談等するべきであり、暴力で制止するべきではない。例えば、先生も酔っ払いが他人に迷惑をかけていても、自ら手は出さない、交番へ行って警察官に対応してもらうようにする、そういうことと同じことだ」「殴るようなことは絶対にしてはいけない」などと指導しました。
7 なお、K君がA君をビンタする前に振り向いたA君がK君に向かって何か言ったかどうかについて、K君は「何か言われた気がする」と言い、A君は「何も言っていない」と言っていて、両者の発言が食い違っていたので、私たちは同窓会室と小会議室を何度か行き来して、その点についても事情聴取しましたが、その点は、発言が食い違ったまま、事実の確定はできませんでした。
8 こうして、K君がA君に対しビンタした状況やその理由経過などがわかり、事象の把握ができたことから、私は生徒指導室へ「振り返りシート」の用紙を取りに行き、清水教諭からK君へ振り返りシートを渡して、これを作成するよう指示しました。
本校では(大阪府立高校の多くもそうだと思いますが)、生徒指導事案が起きたときは、生徒指導担当の教員らが関係生徒から事情聴取をして事象を把握した後に、問題行動のあった生徒に対し、「振り返りシート」を書かせるようにしています。振り返りシートは、甲3号証のシートであり、生徒が質問項目を順に回答していくことにより、自分が何をしたのか、その行動等の何が問題であるのか、何を反省しなければならないかなどを整理させ、自己反省させるようになっているものです。そして、この振り返りシートを書き終わると、生徒の頭の中が整理されるので、今度は自分自身の自由な言葉や構成や思いで反省文を書かせることにしています。そして、生徒指導担当が反省文を読んで、口頭で聴取した内容と齟齬がないか、生徒指導担当が聴取できていなかった新しい事実が出ていないかなどをチェックし、特に問題がなければ、それをもって事情聴取を終了したものとして、補導委員会にかけ、懲戒処分や特別指導の実施について協議することになっています。(生徒に書かせた反省文は、上述のような事実関係のチェックに使用するほか、懲戒処分などを通じて指導を実施した後にあらためて書かせる反省文と比較して、当該生徒の反省の深まり具合などを判断するのにも使用します。)
そして、私はK君に対し、振り返りシートの作成などについて何か聞きたいことがあるときやトイレ等に行きたいときには、1年次職員室に声をかけるように指示し、小会議室を退出しました。トイレに行くときに職員室に声をかけるように指示するのは、本校では、K君に限らず、別室で指導中の生徒については、他の生徒がからかうなどして心情を害されたり反省を妨げられたりしないようにするため、トイレに行くときにも教員が一緒について行き、保護することにしているためです。
他方、同窓会室にいるA君に対しても、清水教諭が、振り返りシートを書くこと、何か聞きたいことがあるときやトイレ等に行くときは、1年次職員室に声をかけることを指示しました。
9 午前11時45分頃、三辻教諭が小会議室と同窓会室へ行き、K君とA君それぞれに対し、反省文の用紙を渡し、振り返りシートを書き終わったら、同シートに書いたことをもとに反省文を書くように指示しました。
10 その後、私が小会議室へK君の様子を見に行ったところ、振り返りシートの回答欄があまり埋まっていませんでした。そのため、私がK君に対し「わからないところが「あるのか」と聞くと、K君は「『自分は、これから何をどうしなければならないと思いますか?』という質問項目が分からない」と応えました。私が振り返りシートを見ると、その質問項目に対する記載が、「同じような事を起こさないように・・・」で止まっていたので、「どうするか考えてみ?」と言うと、K君は「人と関らないようにする、ですかね?」「人と接しなければトラブルも起こらないじゃないですか」と言いました。それに対し、私が「A君は同じクラスやし、これから体育祭や文化祭もあるんやで。人と接しないで、高校生活を送ることができるか? そうじゃなくて、この部屋に呼ばれているのは何をしたからや?」と聞くと、K君が「ビンタをしたこと」と応えたので、私が「そうやな、注意することは良いことやけど、ビンタ以外の方法はなかったか?」と言うと、K君は「口で言う・・・。僕はダメですね・・・」と独り言のように言いました。これを聞いて、私はK君が今後どうすべきであるのか(人に対し注意をする場面があれば、ビンタをするのではなく、口頭で注意をしたり教員を通じて注意をしたりすべきだということ)を理解したものと思い、「どうしたらよかったか、考えてみてみ」と言って小会議室を退室しました。
11 その後、午後0時30分頃、私が小会議室へ行くと、K君の振り返りシートが完成されていることを確認しました。
そして、私がK君に対し「昼食を持っている?」と尋ねると、K君は「弁当を持ってきたが、弁当の入っているかばんが1年2組の教室にある」と言ったので、私は「K君のかばんを教室から持ってくる」と言い、また「トイレは大丈夫か」と声をかけると、K君は「その必要はない」と応えました。そして、私は、「弁当を食べて適当に休憩したら、振り返りシートに基づいて反省文を書くように」と指示し、小会議室を退出しました。
私は、1年次職員室で芝田教諭に対し1年2組の教室のK君のかばんの中に弁当が入っているので、そのかばんをとって小会議室へ持って行ってほしいと要請し、芝田教諭はK君に弁当の入ったかばんを届けてくれました。
A君の方は、弁当を持って来ていなかったので、生徒の昼の休憩時間が終わった後(午後1時20分過ぎ)に清水教諭が食堂へ連れて行って昼食を購入させ、同窓会室でそれを食べており、その後に反省文を書かせております。
12 私は、5時間目と6時間目に授業が入っていたので、昼の休憩時間中に、生徒指導主事である古井教諭に対して、K君とA君とのトラブルについてごく簡単に報告し、K君やA君は振り返りシートを書き終わっているので午後に反省文を書く予定であること、私が午後授業が入っているので、その間は古井教諭の方で適宜K君とA君の様子を見に行ってやってほしいことを伝えました。また、清水教諭にも、私は午後に授業が入っているので、適宜二人の様子を見てやってほしいことを伝えました。
13 6時間目終了後、体育館で生徒を集めて臨時学年集会が開かれたので、私は1年2組の担任としてその集会に立ち会いました。
そのとき、集会前に、古井教諭から、K君の反省文の作成がなかなか進んでいないこと、古井教諭がK君と話をしたとき、「今回のことは反省して変わっていけばよい」と指導したのに対し、K君が「僕は変わらないですよ」と言っていたこと、A君は反省文を書き終わったので帰宅させたことなどの報告を受けました。
14 臨時学年集会が終わり、1年2組の教室で帰りの終礼を行った後、午後4時頃、私は、小会議室へ行き、K君に対し、「古井先生から聞いたけれども、「自分が変われるとは思わない」と言ったのか」と聞きました。K君がこれを肯定したので、私は「自分が変わる変わらないは結果であり、変わる努力をしようとすることが必要だ」と指導したところ、K君はそれについて何か考えるような素振りをしていました。そして、K君が「まったく違う件なのですが、トイレに行ってもいいですか?」と言いだしたので、私が付き添ってトイレへ行きかけたのですが、そこへ三辻教諭が補導委員会へ出席するように呼びに来たので、私はK君を三辻教諭に任せて、午後4時からの補導委員会へ出席しました。
15 補導委員会では、K君とA君に対する懲戒処分について協議がなされました。補導委員会に問題行動をした生徒が付議されるのは、本来は、当該問題行動をした生徒が反省文を作成し終わってからとなります。K君はまだ反省文を書きあげていなかったのですが、反省文を書き上げたA君だけ補導委員会に付議し、K君だけ後日に補導委員会に付議するというのではアンバランスでしたし、K君についても早く補導委員会に付議して懲戒処分を実施して指導を施し、通常の学校生活に復帰させる方が有利であり妥当であること、またK君とA君からの聴取結果は概ね一致していて事実関係は把握できていたことなどから、K君についても補導委員会に付議されました。
そして、補導委員会では、古井教諭が議事進行をして、K君とA君が授業中にビンタをしあうというトラブルを起こしたこと、そのトラブルの内容や原因などを説明し、それについて清水教諭や私が補足説明をして、両者をともに停学5日間とする懲戒処分案が決定されました。本校の内部的な生徒懲戒基準では、他の生徒に対する暴力事案については原則として停学3日間とすることとされていますが、本件のK君とA君の事象は授業中にビンタしあって授業を妨害したという要素があることが加味されて停学5日間とするのが妥当とされたものでした。
そして、A君については、翌週5月18日(月)に校長が最終的に懲戒処分を決定して申渡しを行い、K君については、反省文が提出されてから校長が懲戒処分を決定し、翌週火曜日に懲戒処分の決定及び申渡しを行うことになることとしました。
16 補導委員会は午後4時20分頃に終了しましたが、私はその後引き続き生徒指導部会に出席する必要があり、同部会に出席しない1年の学年主任の小野教諭と話をしたところ、小野教諭が小会議室のK君の様子を見に行ってくれると申し出てくれましたので、お願いしました。
17 そして、生徒指導部会の途中でしたが、小野教諭から廊下に呼び出され、K君が反省文を書きだしたこと、K君が、自分の思いを文章にするのが苦手なために反省文がうまく書けないと言っていたこと、小野教諭から自分のやったことを振り返って素直に書けばよく、短い反省文でもよいことを指導したことなどの報告を受けました。
また、古井教諭と、K君の反省文がまだ書きあがっていないけれども、下校時刻を過ぎているので、K君を帰宅させようということを話しました。
18 私は、A君の保護者に電話をかけ、A君がビンタしあうというトラブルを起こしたこと、月曜日に本校へ来校してほしいことなどを連絡しました。
19 その後、私が小会議室へ行ったところ、K君の反省文は2、3行書いたところで止まっていました。K君は三辻教諭に書いてもらったメモを見ていたのですが、私は、A君をビンタするなどしたことについて反省していることと、突発的に行動してしまうところを変えたいというK君の意思を確認し、「そのアドバイスどおりに書かなくてもいいぞ、時系列も前後してもいいし、漢字も分からなければひらがなで良いし、うまく書く必要はないんやで。自分の反省した気持ちと、変わりたい気持ちを素直に書いたらいいねんで」と、気楽に自由に書くように助言しました。すると、K君は「分かりました」と言いつつ、「でも、少しは(三辻教諭のメモを)参考にします」と言って、そのメモを参考にして反省文を書こうとしました。私は、K君を帰宅させようと思っていたのですが、K君のその様子から、もう少し反省文を書く時間を与えた方が良いと思い、「また後で来る」と言って小会議室を退室しました。
20 その後、午後5時40分頃、私は小会議室へ行き、K君の書いていた反省文の状況を確認したところ、まだ完成はしていませんでしたが、先ほどよりは書き進んでいて、あとは辞書などで漢字や言葉を確認するなどしながら書き上げられるというような印象を受けたので、土曜日・日曜日を使って自宅でその続きを書くことができると思い、「月曜までに家で書いてこれるか?」と聞くと、K君が「はい」と応えたため、帰宅させることにしました。
そして、既にA君の保護者へ連絡を入れていたように、本校では生徒に問題行動があったときは必ず保護者へ連絡することになっているので、私はK君にも「これからの動きは、今日家に電話してお母さんに伝えます。お母さんにも後日学校に来てもらわないといけなくなるかもしれないから、先生からも伝えるけど、自分の口で今日学校であったことと、反省していることと、変わろうと思うことを伝えるんやで」と言いました。このとき、K君の表情が少し曇ったように見えたので、私は、どうしたのかと聞きましたが、K君は応えませんでした。そこで、私は、「K君がアカんかったと思うことを変わろうとして、成長したら、お母さんも協力してくれるから大丈夫や」などと言いました。すると、K君が「でも、それはきれいごとですよね、(お母さんにとって)迷惑以外の何物でもないですよね」と言ったので、私は「それは違うぞ。これからK君が、変われるか変わられへんかじゃなく、変わろうとしたらそれは成長やし、お母さんにとって迷惑じゃなくなるよ。自信がなかったとしても、変わろうと考えられるだけで成長やから、まずそこを目指そう」と言ったところ、K君の表情は和らかくなりました。
そして、私が「もう時間も時間やし、帰ろか?」と言うと、K君が「教室に体操服などを置いているので、取りに行ってもいいですか?」と言うので、私は「分かった、じゃ、一緒に教室まで行こか」と言って、二人で1年2組の教室に荷物を取りに行きました。教室へ一緒に行くことにしたのは、K君との信頼関係をより深めたかったためであり、他の生徒が教室付近に残っていてK君をからかうなどするようなことがないようにしようとも思ったためです。
そして、K君が荷物を取って教室を出るとき、私は「それじゃ、月曜日に反省文を書いて持っておいでや、この後の指示は家に電話でするから」と言い、「気をつけて帰りや」と声をかけた。それに対しK君は「さようなら」と言い、私も「さようなら」と返し、K君は下校していきました。
21 その後、私は、校外へ出る用事があり、午後6時過ぎに本校を出たのですが、K君に告知していたとおり、午後7時過ぎに(それは、K君から提出されていた家庭連絡票に、保護者への連絡時刻として、K君のお母様の仕事の休憩時間として指定されていた時刻です)、携帯電話に電話をかけましたが、電話に出られませんでした。そこで、K君の自宅にも電話をかけたのですが、それにも出られませんでした。そこで、家庭連絡表に自宅への連絡は21時以降にすることの指定があったので、午後9時以降にあらためて自宅に電話をかけることにしていました。
22 そうしたところ、学校から私の携帯電話に着信があり、午後7時51分に学校に電話したところ、警察から、K君が踏切ではねられたと連絡があった旨を聞きましたので、私は急いで本校へ戻り、警察と電話でいろいろとやりとりをしました。
K君の死亡については、あらためて哀悼の意を表しますが、それが仮に自死であるとしても、K君の起こしたトラブルは一般に高校生にしばしば起きうるトラブルであること、K君に対して行った事情聴取や指導はごく通常のものであること、K君の下校時刻が午後6時前頃と多少遅くはなったものの、それはK君がなかなか反省文が書けなかったことによるもので、やむをえなかったものであること、事情聴取や指導時のK君の様子も格別に変わったところはなく、下校時の様子もごくふつうであったことなどから、およそ自死をするなどと予期できるようなものではなかったものです。
以上のとおり陳述いたします。
以上